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母の願い
聞け、龍二。母の声を!
ワシは芳恵の声を龍二に届ける。
「ダルマ様よ。
どうかあの子をお見守りください。
あの子が幸せであるように
どうかお力を貸してください」
龍二は体の力が抜けたようにその場に膝をついた。
「なんだよ……何を……」
龍二はつぶやきながら再び自分の頭からワシをとり外し、まじまじとワシの顔を見る。
何度も転び、ところどころふやけたワシの体。
墨で入れられた左目は雪で濡れてにじみ、黒い筋が幾本も流れていた。
「なんだよ……泣いてるみたいじねぇかよ……まさか……?」
龍二は来た道を振り返り、また行く道に目を向ける。
「今行かんとバスに間に合わん。このバスを逃したらもう試験には間に合わんのだぞ」
そう口の中でつぶやきながらも、龍二はワシを抱きかかえると来た道に向かって走り出した。
「母ちゃん!!」
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