プロローグ

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 今この瞬間、少女は殺されそうになっている。  しかし、少女は何も感じない。  何も感じない風に育てられてきたから。  そうしないと、生きられなかったから。 「別に、貴方が私を殺したいと思うのなら、勝手に殺せばいい。 私は、生きながらに死んでいるような……空っぽな『モノ』なの。」  少女は自ら包丁に近付く。 「……うぉっ」  フードの人はそれを見て慌てて包丁を下げる。 「……なんで? 殺したいんじゃ無かったの?」  私を殺すんじゃなかったの?  少女は下げられた腕を掴み自分の首もとに持っていく。 「殺すのなら早くして。」  少女は男に催促する。  男はそんな少女を見て、驚いたような顔をしている。  フードの影でよく見えないが。 「……君、なんで笑ってるの? それに、自分から死のうとして……」 「笑ってる……?」  少女は、掴んでいた手を離し自分の口元に持っていく。  すると、少女の口角は明らかに上がっている。  自分の意思とは関係なしに笑ったのはいつ以来だろうか。  心の何処かで達観しかような少女が思う。 「それに、君、その目……」  フードの人は少女の目を指差して続ける。  そう男が思うのも当然だ。  なぜなら、少女の目は。 「不気味でしょ? この目のせいで、私は父に嫌われていたのだから」  少女の目は、緑の。  深い緑色をしているのだから。 ──この目のせいで、いじめられた。 この目のせいで、父に嫌われた。 この目のせいで、母がおかしくなった。 この目のせいで、私はモノになった── 「さあ、殺すなら早く。」  早く、楽にして。  フードの男は包丁を持って振りかぶる。  少女は目の前の死に無意識に歓喜を感じながら目をつぶる。  次の瞬間、少女の体は包丁で一突きにされ── 「……?」  一突きにされてない。  少女は、思わず目を開ける。 「なーんてね、殺すわけないじゃん」  男は楽しそうに言う。 「なんで……?」 「俺さ、こんなんだから……。 ずっと怖がられてて、それでさ、ロクに友達とかいないわけ。 でも、君は俺を怖がらないからさ。 こんなこと、初めてなんだ」 「……?」  訳が分からない、という風に少女は男を見つめる。 「……取り敢えず、貴方を怖がらない人が私が初めてって言うこと?」 「そゆこと! でさ、そこで相談があるわけなんだけど……」  そう言ってフードの人はソファに座る。  服に付いていた血がシミになる。 「……」 「俺、ここに住んでいい?」 ………。 ………。 ………。 「………はぇ?」
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