21人が本棚に入れています
本棚に追加
今この瞬間、少女は殺されそうになっている。
しかし、少女は何も感じない。
何も感じない風に育てられてきたから。
そうしないと、生きられなかったから。
「別に、貴方が私を殺したいと思うのなら、勝手に殺せばいい。
私は、生きながらに死んでいるような……空っぽな『モノ』なの。」
少女は自ら包丁に近付く。
「……うぉっ」
フードの人はそれを見て慌てて包丁を下げる。
「……なんで?
殺したいんじゃ無かったの?」
私を殺すんじゃなかったの?
少女は下げられた腕を掴み自分の首もとに持っていく。
「殺すのなら早くして。」
少女は男に催促する。
男はそんな少女を見て、驚いたような顔をしている。
フードの影でよく見えないが。
「……君、なんで笑ってるの?
それに、自分から死のうとして……」
「笑ってる……?」
少女は、掴んでいた手を離し自分の口元に持っていく。
すると、少女の口角は明らかに上がっている。
自分の意思とは関係なしに笑ったのはいつ以来だろうか。
心の何処かで達観しかような少女が思う。
「それに、君、その目……」
フードの人は少女の目を指差して続ける。
そう男が思うのも当然だ。
なぜなら、少女の目は。
「不気味でしょ?
この目のせいで、私は父に嫌われていたのだから」
少女の目は、緑の。
深い緑色をしているのだから。
──この目のせいで、いじめられた。
この目のせいで、父に嫌われた。
この目のせいで、母がおかしくなった。
この目のせいで、私はモノになった──
「さあ、殺すなら早く。」
早く、楽にして。
フードの男は包丁を持って振りかぶる。
少女は目の前の死に無意識に歓喜を感じながら目をつぶる。
次の瞬間、少女の体は包丁で一突きにされ──
「……?」
一突きにされてない。
少女は、思わず目を開ける。
「なーんてね、殺すわけないじゃん」
男は楽しそうに言う。
「なんで……?」
「俺さ、こんなんだから……。
ずっと怖がられてて、それでさ、ロクに友達とかいないわけ。
でも、君は俺を怖がらないからさ。
こんなこと、初めてなんだ」
「……?」
訳が分からない、という風に少女は男を見つめる。
「……取り敢えず、貴方を怖がらない人が私が初めてって言うこと?」
「そゆこと!
でさ、そこで相談があるわけなんだけど……」
そう言ってフードの人はソファに座る。
服に付いていた血がシミになる。
「……」
「俺、ここに住んでいい?」
………。
………。
………。
「………はぇ?」
最初のコメントを投稿しよう!