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その日は一日中雨が降っていた。
早朝は霧雨。午後に近づくにつれて雨足は強まり、昼食の時間には豪雨と化す。水浸しとなったグラウンドは、まるでさざめく水面のようだ。
来華はガラス窓を叩く雨に向かってため息をついた。これでは屋上に上がれない。
昨日の天気予報では晴れると言っていたのに、真逆の天気ではないか。通り雨のように少し時間が経てば晴れないだろうか。しかし、そんな思いとは裏腹に、スマホの雨雲レーダーは夕方までこの雨が続くことを示している。
これは絶望的だな。
来華は肩を落とした。
ひょっとして、世界が私に敵意を見せつけているのかしら?
そんなことを思い、来華は誰もいない教室で目を閉じる。そして、空の向こう側にいるかもしれない偉大なる存在に心の中で語りかけた。
ああ、私にはあなたに敵意などありません。どうか、お鎮まりください。なむなむ。
「何やってんの?」
突然後ろから声をかけられて、来華はハッと目を開けた。雨の水がダラダラと流れていく窓ガラスに、来華よりも背の高い影が薄っすらと映っている。
振り返るまでもない。渡慶次だ。渡慶次が来華の後ろに立っていた。
来華が振り返ると、渡慶次は思ったよりすぐそばに立っていて、来華の視線がちょうど渡慶次の胸あたりにぶつかる。制服のセーターの紺色が来華の視界を占領した。
「あ、雨、すごいなぁって思って、た」
見上げると、渡慶次と一瞬目が合ってドキっとする。渡慶次は窓の外を見て、ふむふむ、と頷き、
「屋上、行く?」
と、外を見たまま言う。来華は正気かな、と思わず眉をひそめた。
「すごい雨だよ、ずぶ濡れになっちゃう」
「傘差してもダメ?」
「ダメ」
来華はドキドキしていた。実は来華が渡慶次と言葉を交わすのはこれが初めてである。
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