<23・そして、宣戦布告>

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 しかし証拠がないなら、しらばっくれればいいだけのこと。素直に認めてやる必要がどこにあるというのか。 「とぼけなくていいですよ、もうわかってるんで」  が、成都はもう惣介が黒幕であると完全に確信しているらしい。今まで見たこともないほど険しい顔で惣介を睨みつけてくる。 「俺は、貴方のことを愛していました。感謝もしていました。……一方的に別れを告げてしまったことに、負い目もあったし……申し訳ないという気持ちも少なからずあったんです。でも」 「でも?」 「……俺の恋人かどうかなんて関係なく。自分の目的のために、人を傷つけようなんて。それも自分の手を下さず、他人に手を汚させようなんて。……貴方には、失望しました。そんな人だなんて思わなかったです」  目が曇っていたのは俺の方だったんですね、と吐き捨てる成都。 「金輪際、千愛さんに近づかないでください。それから、もし今度また同じようなことがあったら……その時は覚悟してくださいね」 「覚悟ってなんだよ」  ああ、女がいない場所で、そこまでカッコつける必要もないというのに。惣介は呆れて肩を竦める。 「人を殴る勇気もないお前が、俺を殴るってのか?証拠もないのに?」  そんなことできるわけがない、と確信していた。だって自分は、彼のことを誰よりもよく理解している。あんな女よりも、家族よりも。成都の苦しみを知り、傍によりそってあげていたのは誰だと思っているのか。  支配の鎖は簡単に切れない。抜け出せない。ましてや、妙なところで甘ったれたこいつには。 「いいえ」  が。成都はきっぱりと、言い放ったのだった。 「その時は。……お前を殺す。それが俺の責任の取り方だ。いつまでも人をナメてんじゃねえぞ」  敬語が癖になっているような、彼が。初めて男らしく、やや乱暴な口調で自分にそう宣言した。  ぞくり、と背筋が泡立つ感覚。ああ、これを一体なんと呼べばいいのやら。 「……言いたかったことは、それだけですので。じゃあ」  彼は一方的にそう言い捨てると、そのまま階段の方へと歩き去っていった。あとに取り残された惣介は、ぶるり、と体を震わせることになる。  少しだけ、興奮した。 「……ふ、はは。なんだ……そんなイイ顔もできんじゃねーか」  ああ、逆効果だったと彼は気づいているのか。屈服させたい。心からそう思った。大体、“千愛に近づくな”であって“自分達に近づくな”と言わなかったあたり、彼はまだまだ甘いのである。 ――あの女も、想像以上に面白いやつみたいだしなあ。  一番欲しいものは。簡単に手に入らないからこそ、愛も募るのかもしれない。  どうせなら二人一緒に、この手に落としてきてやろうか。それもまた一興だ。 ――楽しいなあ。  惣介はぺろり、と下唇を舐めたのだった。
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