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<1・再会は突然に>
酒は飲んでも呑まれるな、という至言がある。まあ大体の意味としては、お酒が好きで飲んでもいいけど、その魔力に飲み込まれたらあかんよ、という意味と解釈して間違いないだろう。実際、お酒を飲みすぎると人は理性を失う。うっかりセクハラをぶちかますとか、うっかり黒歴史を喋るとか、あるいはものすごいリバースして大迷惑をかけたり恥を晒したりとか――つまりはそういうことだ。
そう、酒が好きだけど酒癖が悪いという自覚があるのなら。きちんと自分の中で、セーフラインを見つけておくべきなのである。そして、理性でもってしてそこできちんと退く努力をしなければいけない。何かをやらかしてしまってからでは遅いのだから。
そう。
――こ、この状況は……!
こうなってからでは、遅いのである。
明らかにラブホと分かるベッドの上に、一組の男女。その女の方である――二十八歳の梅澤千愛は。二日酔いでガンガン痛む頭で、さーっと血の気を引かせている真っ最中だった。
お酒が大好き、という自負があり。
酒癖が悪い、という自覚もあった。
だから飲みすぎないようにしなくちゃ、と自分に言い聞かせ、最近はわりと自制ができていたはずだというのに。
――や、やっちまったああああ!
隣には、すやすやと眠るイケメン。布団のせいで体はよく見えないが、露出している肩からしてほぼ全裸なのは間違いないだろう。一方千愛も千愛で、すっかり綺麗に生まれたままの姿を晒している状態。ああ、体がすーすーして頂けない。ついでに、恥ずかしい場所がなんだか濡れているような気もしている。すっぱだかの男女がラブホのベッドの上で二人で眠っていたのだ、当然何も無かった筈はない。しかもそこで眠っている明るい茶髪の青年、橘成都は。何度も話したことのある、会社の同僚であるから尚更ばつが悪い。
元々知り合いであったのは確かだ。それでも恋人同士、になったわけでもないし、再会してそんなに長い期間も過ぎていない。それなのに、どうしてこんなことになってしまったのか。これはさすがに酔った勢い、で誤魔化して済む問題ではない。
――やばいやばいやばい。き、昨日何があったっけ……!?
外からは明るい朝の陽射しが射しこんできている。確か、金曜日だからとハメを外して飲んだのは事実。ゆえに、朝チュンしてそのまま会社に行かなければならないという事態ではない、のだが。
それでも決定的にやらかしてしまったことに変わりはない。
ガンガンと二日酔いで痛む頭を抑えて、記憶を呼び戻そうと努める。そして次第に昨日の出来事を思い出し、千愛は頭を抱えることとなったのだった――。
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