Bus Stop

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 黄昏の中で時を止めたバス停に、死者を運ぶ来世行きのバスが現れる。そして、それは時折、生者の前にも姿を見せるらしい。そのバスに乗ることができた男女二人は、この世から存在を消す代わりに、来世での祝福が約束されるのだという。  この町に伝わる都市伝説のようなものだ。周囲に田園が広がるだけの不可解な立地と、年季の入ったうらさみしい雰囲気に加えて、そのバス停の利用者を誰も見たことが無いという背景が、そんな伝説を生み出したのだと思う。  わたしは追憶する。十五年前のある冬の日、わたしはそのいわくつきのバス停でバスを待っていた。  すべてを失った気がして、生きる意味なんてひとつも見つからないのに、だけど死ぬこともできなくて――せめて、この町から逃げ出したいと強く思っていたのだ。  行き着く先は、どこでも良かった。だけど、もし来世行きのバスが本当に現れたなら、迷わずに飛び乗ろうと密かに思っていた。  彼に逢いたかった。少し乗り遅れてしまったけれど、そのバスに乗れば来世で彼と結ばれることができるかもしれない。そんな子供じみた幻想に、その時のわたしは縋っていた。  
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