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Bus Stop
薄暮のバス停で泣いている少女がいた。
いつものバスに乗り遅れ徒歩で家路を辿っていたはわたしは、見えない力に袖をひかれるようにその場所に立ちすくむ。
時折吹き付けていた空っ風が、ぴたりと止んでいる。耳に届く音という音が膜を隔てたかのように遠く聞こえ、ここは自分がいるべき場所ではないという強い疎外感を感じた。
そんな異様な黄昏の中、わたしはまるで金縛りにあったかのように、その少女から目が離せなくなった。
その少女は、紺色のダッフルコートを身にまとい、木製のベンチに腰をかけていた。傍らには大ぶりのリュックサックが置いてある。不規則に漏れる白い息が、淡いオレンジを広げた空に昇っていく。その横顔は前髪の影に隠れていて、表情は窺いしれない。それにも関わらず少女が泣いていると分かったのには、理由があった。
なんで、と思った。なんで今さら、このバス停に……。
そう、見間違うわけがない。彼女は十八歳のわたしだった。
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