明日のときより

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「ほんと、カッコ悪ぃ」  鼻をぐずつかせながら言う俺の隣では、明日乃が虚空を見つめている。その様子はいつもの無表情というより、泣き疲れて放心しているようだ。 「あんなこと言っといてなんだけど……大学のこと、やっぱりよく考えて決めろよ。大事なことだし、もしおまえが向こうに行っても手紙書くからさ」  言いながらまた目元が潤む。  本当にカッコ悪いな。これじゃ未練があるって丸分かりだ。そう考えていると、頭の上に小さな手がぽんと乗ってきた。 「よしよし」  涙をこぼす俺に、明日乃はそう言って小さく笑った。  明日乃は外国には行かなかった。  教授も相当ねばったが、俺達の意志は固かった。毎日のようにやりとりを続け、どうにかいままでどおりの形で研究に携われるようになった。  俺の拙い英語での説得なんかよりもずっと決定的だったのは、明日乃が突きつけるように教授に送った数式だったのだろう。 『L=∀』  これを見た教授が、それまでの頑なな態度を急に和らげたからだ。  顔文字みたいな数式の意味はわからなかったし、明日乃も顔を真っ赤にするだけで教えてはくれなかった。  それでもよかった。いまはわからなくても、いつかわかる日は来ると思うから。  明日乃と一緒にいれば、いつか必ず。  だから俺は、またあの広場で明日乃と一緒の時間を過ごす。  これから先も。もう少しだけなんて言わず、ずっとずっと一緒に。
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