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そして食事を終え、その間にビデオに動きがないかと3倍速で録画をチェックしてみても何も動きは無かった。
ただ、ずっと同じ画面が続いていた。
時刻は24時前。
ひょっとしたら深夜に来るかもしれないし、来ないかもしれない。
ここは肚を括ってさっとカメラを付けに行こうと思った。
ユニセックスな服から黒い作業服に着替え、黒い手袋をつけて、鞄を持って別荘に出かけた。
周囲は思ったより月明りが冴え渡り、湖から聞こえる水音や、風が木々を揺らす明るい夜だったが足元から底冷えする冷たい空気に思わず身を震わせた。
「寒いな……全く。こんな事で訪れたくなかったよ。普通に遊びに来たかった」
そんな愚痴を言っても仕方ない。
僕は別荘に静かに近寄って、サイコロを少し大きくした程度の小型カメラを扉入口に備え付けてあるプランターの中にそっと置いた。
そして、別荘のドアを開いた。
僕は別荘に入り込む前にポケットからシャワーキャップを取り出して靴に被せた。
開いた先には兄さんが居て──とか、考えたが。
杞憂でしかなかった。人の気配はしない。
ただ広い玄関と目の前に二階へと続く階段があるだけ。
別荘はただ眠りについているかのように静まりかえっていた。
月明かりのおかげもあり、灯をつけなくても探索出来そうだった。
これならいける。
そのまま玄関に上がるとごとりと、硬い音が響いた。そして、手入れはやはりされているようで少々の埃ぽっさはあったが、蜘蛛の巣が張っていることもなく室内は清潔だった。
そこから10分程室内を探索した。
間取りと図面を頭に入れていたこと、昔の記憶も合間って妙な既視感を覚えた。
「うん、これなら目を瞑っても行けそう。で……盗聴器を寝室に……」
と、二人が使うであろう一番大きな寝室に踏み入ったが──ベッドを前にして迷った。
もし、ここで二人がセックスをしだしたら。
その声や音を聞いたら。
僕はきっと冷静じゃいられないと思った。
絶対に無理。
迷った挙げ句、盗聴器はリビングルームに設置することにした。
リビングルームはザ・別荘と言わんばかりに暖炉があり、大きなロッキングチェアがあった。
そのチェアに編み物をしているお婆さんが居てもおかしくない程に理想の別荘と言わんばかりだった。
そんな事を考えながら、暖炉をつけたら部屋は暖かそうだとか思いつつ手はテキパキと動かした。
万年筆形の盗聴器はリビングテーブルの上に堂々と置いて、その横に僕が用意したメモパッドも置いた。
そして、キッチンルームに立ち寄り研ぎ澄まされた刃物は全部丁寧に納戸奥にしまい、代わりに100円均一とかでみられる安いセラミックの刃物を一本だけ置いといた。
これは最悪の場合の保険。
そして滞在時間30分程で僕の作業工程はつつがなく終わって、また闇夜に紛れてペンションに戻った。
準備はこれで出来るだけの事はした。
後は二人が来るだけ。
部屋に戻り、盗聴器やカメラの映像をチェックする限り、問題なし。
双眼鏡から見る別荘も引き続き人の訪れる気配はなし。
そこでようやく僕は安堵して、シャワーをサッと浴びてベッドに倒れ込むように眠りについた。
眠りに落ちる寸前まで変な気持ちだった。
二人が来て欲しいような、来て欲しくないような。
このままずっとここで見張っておきたいような。
そんな思いに揺らめいて眠りについた。
──朝、別荘の前に車が止まる音がして僕は飛び起きた。
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