703人が本棚に入れています
本棚に追加
/111ページ
パチンと、暖炉の炎がはぜて僕は体をびくりと震わせた。
「ちょ、ちょっと兄さん。正気?」
待て待て。
僕は向けられた銃口に思わず一歩下がってしまった。
モデルガンか本物か。
そんなの僕にはわからない。
猟銃は確か、空気銃と装薬銃の2種類だったはず。
後者なら火薬を使う散弾銃と確か──ライフル銃。
どっちにしろ、試してみたいと思はない。
エアガン、空気銃だって目に当たれば失明ぐらいする。
散弾銃、ライフルなら言わずもがな、だ。
そんなものが何で此処にあるか。
ひょっとしたら見栄を張るのが好きな父さんが見せびらかす為に購入したものが此処に残っていたのかも知れないし、兄さんが用意したのかもしれない。
いずれにせよ、脅威にかわりはないが──。
「流石にやり過ぎだよ。ここで僕を殺したら本当に兄さんが捕まるよ」
しかし、兄さんは動じてない。
そして千鶴も未だに固まったまま。
ただ、瞳にだけが忙しなく瞬きを繰り返していた。
兄さんは片手で千鶴を抱きながら、右手で銃を僕に向けて淡々と喋った。
「……俺の婚約者にお前は横恋慕して千鶴を襲った」
「……何のこと?」
「それを気に病んだ千鶴は俺と二人で、見知らぬ土地で生活することを選んだ」
「だから、何の事をっ」
「しかし、浅ましくもお前は千鶴をまた襲いにきた。そして、抵抗されて──。それか、単純に海外留学や将来の事で悲観して自殺しにきた、でもいいか」
「無茶苦茶だっ! そんなの皆が信じる筈ないだろっ!」
僕は思わず声を荒らげた。
やばい、やばい。
ここまで兄さんが本気だとは思わはなかった。
僕が逃げるにしても背中を向けたら終わりだと思った。
ちょっと早く警察来てくれないかな。
マジでヤバいんだけどっ!
「信じるも信じないのも、生きてる人間が判断する事だ。真実は生者のものだ。お前、勉強してきたのに死人に口なしと言う言葉を知らないのか」
その言葉と同時にかちりと、銃のセーフティが外れる音がした。
「っ!」
「じゃあな。光。あの世で勉強し直せ」
「もう、やめてぇぇぇ───ッ!!」
刹那、千鶴の悲鳴にも絶叫にも似た声が響き渡った。
最初のコメントを投稿しよう!