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そう、僕はあの日を最後に兄さんとも千鶴とも、二度と会うこと無く大人になった。
なってしまった。
あのとき気を失って僕は病院に運ばれた。
目が覚めたときには全てが終わっていた。
病室で両親から話しを聞いた。
僕自身は少し煙を吸い込み、喉を痛めたのと疲労で寝込んだぐらいで済んだが千鶴は違った。
千鶴は心神喪失状態に追い込まれて面会謝絶。
誰も、警察ですらも会えないと聞いた。
そこから──目まぐるしく僕を取り巻く環境が変わった。
別荘は半焼程で済んだが肝心の兄さんは見つからなかった。
ただ、湖から兄さんの履いていた靴が見つかった。
湖を捜索しても今日に至るまで兄さんは見つかっていない。
燃える別荘。
そこで名家の娘と成金の長男がいた。
しかもその長男は行方不明に。
そこに現れ千鶴を救命活動した高校生の僕。
当時のマスコミは食いついた。
兄さんの目立つ容姿に世間が食いついた事も一因していた。
やれ、悲劇の駆け落ちだとか。
政略結婚に悲観した二人。
真実の愛を求めて。
──心中を試みたと、マスコミは囃し立てた。
そこに現れた僕は花嫁を救ったと、ヒーロー扱いをされた。
お手柄イケメン高校生とか、妙なキャプションまで付いて。
そのせいで高校卒業まで随分マスコミに追い回された。
僕は本当の事を、真実を一切喋らなかった。
警察にも両親に言った事しか言わなかった。
僕がまだ未成年だったことや、千鶴の状態もあり追求は逃れた。
そして何よりも肝心の兄さんが見つからなかった為に、捜査はうやむやになった。
暫くして中には愛憎の果ての惨劇と、的を得たものもあったがその記事が出る頃には僕はあんなに嫌だった海外留学をしていた。
何故なら両親から今後一切、冬野家は月宮家と関わらない。そういった事で示談したと父さんが疲れた顔で僕に言った。
千鶴は生きていると教えてくれたが、どこで治療を受けているかなど、詳細は一切教えてくれなかった。
それに僕が会えたとしても、今度こそ本当に何も出来ないと思った。
子供の僕に出来ることはもう何もなかった。
早く大人になって。
自分で稼いで。
千鶴に会いに行きたいと思った。
だから海外留学をして、更に勉強を重ねて、向こうの大学を主席で卒業して日本に戻ってきた。
未だに経営を伸ばしている家業を、冬野の家の仕事に携わった。
そこから僕は自分を売ろうと思った。
あの事件の事を自らSNSで喋った。
僕、お得意の真実は言ってないが嘘も言ってない事をオーバーに語った。
それに世間は食いついてくれて、僕はあれよあれよと言う内にそこそこの有名人になった。
今では自分の好きに出来るお金の額が随分と増えた。
さっきの男もその恩恵だった。
そう、有名人になったら、千鶴が兄さんが何処かで僕の事を見てるかもしれないと、現れてくれるんじゃないかと思った。
僕はどうしても千鶴を諦める事が出来なかった。
諦めようと千鶴以外の女の人と付き合った事も、セックスをした事もあったがダメだった。
ただ千鶴に会いたい。
あんな事があって僕は嫌われてるかもしれない。
年月が千鶴を変えてるかもしれない。
だけど。
千鶴への想いは僕の胸にずっとずっとあの日の炎ように消えないでいた。
そして、ようやくその想いが報われようとしていた。
僕はそっと鏡から手を離して机の茶封筒を抱きしめた。
「千鶴──会いにいくよ。あのとき渡せなかった指輪をちゃんと持って」
だから。
またプロポーズするから、今度こそ僕と生きて欲しいと思った。
──完──
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