奪い奪われて

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結婚式三日前。 そして用意は全て整った。 新しいスマホはSIMカードを抜いて、家に。 今回の為だけに使い捨てスマホを用意していた。 今日僕は体調が悪いと昨日の夜から訴え、本日学校をズル休みしていた。 朝早くから両親はでかけている。 家に一人。 しかも昼夜の食事代一万円を貰った。 これから別荘に向かう軍資金として有り難く使わせて貰う。 玄関で身支度を整える。 鏡に映る僕はユニセックスな服装に身を包んでいた。黒いパーカーに紺のジーンズ。 そして黒のリュック。 トレキックング用の動きやすい赤いシューズ。 いまから向かうペンションには今流行りのソロキャンプを楽しみ来たという設定。 そして手には変装用の黒いロングヘアーのウィッグを持っていた。 サッと被ってみる。 「……んー、女に見えるとは思う」 一応、違和感がないかと昨日いつも顔を出しているディスコード仲間に、ウィッグを被って初めて顔出しをしてみると反応は上々だった。 だからいけるだろう。 お世辞だと思うけれども「美少女」「付き合いたい」と言って貰えたから普段の僕の姿を欺けると思った。 兄さんと予想しないところで鉢合わせしてもすぐにはバレないだろうと思った。 よしと、気合を入れる。 いきなり失踪するとそれこそ、警察に通報されかねないので、置き手紙に『彼女と旅行に行ってくる。3日後には戻ります。連絡は夜の18時に入れる。ごめんなさい』 と、残した。 これぐらいなら恋愛にのぼせた上の行動で、いちいち警察に連絡しないと思った。 「ん、よし行こっか。ウィッグは適当に駅のトイレで付けようっと」 僕はサッとリュックにウィッグを入れた。 もちろん、この家にはまたちゃんと帰って来るつもりだ。 誰も答える人はいないけれど。 「行ってきます」 そう、口に出して家を後にした。 途中、最寄り駅でウィッグを被って目的の別荘のある県までたどり着くまでに何回も──ナンパされた。 世の男たちは目が節穴かと思った。 そう、軽々しくよくナンパ出来るかと途中から関心した。 僕はとっても緊張したというのに。 なんとかナンパの手を振り切って新幹線で人心地ついたときにふと考えた。 僕も千鶴とデートの待ち合わせをして、後ろからナンパの振りをして驚かせたいとか。 ナンパに困っている千鶴を「それ、僕の彼女ですけど」とか言ってみたいとか、他愛のないことを考えた。 そんな普通の事が難しいのもよくわかっているが、やっぱり千鶴を取り戻さないと話しにもならない。 だから僕は出来るだけポジティブであろうと、考えを巡らせた。 どうかこれが無駄足になりませんように。 千鶴にもう一度会えますように。 流れる景色を一時間ばかりぼうっと見つめていたら目的の駅に到着した。 もしかしたらもう先に兄さんがこの地に足を踏み入れているかもしれない。 ぼうっとしてる場合じゃない。 僕は気持ちを入れ替えて、新幹線を降りた。
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