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「疲れた」  彼女は帰宅早々、「ただいま」も言わずによたよたと歩き、手にしていた鞄をベッドの上にぼすん、と放る。それから崩れ込むように、ソファーの上に横になった。  仰向けの彼女を上から覗くように「おかえり」と声をかける。 「ただいまあ。うあー」  両手足を意味もなくばたつかせたあと、ジャケットの胸ポケットから顔を出していたスマートフォンを取り出して、ぐるん、とうつぶせになる彼女。 「げ。もうーああーもうー」  スマートフォンを見た途端、顔をソファーに埋め、膝を曲げて左右の足をばたばた動かした。唐突にがばっと顔を上げると、「よし」と言ってスマートフォンに人差し指で触れてロックを解除し、フリック入力で何かを打ち始める。  僕は「ご飯、食べたくなったら言ってね」と言って彼女の占拠するソファーから少し離れたテレビの前に移動して、先ほど中断したゲームを再開した。モンスターを育てて戦う育成系のゲームで、モンスターに名前を付けることも出来る。僕の育てた「ミケ」ちゃんはもうすぐ大きな大会を控えた大事な時期で、ここでミケちゃんに勝ってもらうと僕の経営する牧場に賞金が入り、新規の設備を導入できる見通しだった。 「今日御飯なにー?」  明らかに手元のスマートフォンに夢中で上の空な彼女の問いに、返事をしようと振り返った。
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