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 車の中には、僕が好きなバンドの曲が流れていた。そういえば最近は全然新曲を追いかけなくなってしまった。ライブの情報も、本人の公式SNSも、全然見ていない。 「いい曲だよね。この曲」  彼女はうっとりとそう言ったけれど、僕はその曲を知らなかった。リリースしたことも、その時期も、曲名も、なにもかも。 「そうなんだ」  僕はその曲を聞いた。心に寄り添うような、応援歌だった。  彼女の運転する車は、昼前くらいに海に着いた。僕らは時期を過ぎて観光客の少ない冬の海を、砂浜からじっと見た。 「写真、撮ろ」  彼女は僕の横に顔を寄せ、腕を伸ばしてスマートフォンのインカメラで写真を撮った。背景の海はほとんどフレームに収まっていない。  僕はスマートフォンで写真を確認する彼女の横でしゃがみ込み、足元を見た。砕けて小さくなった貝殻が転がっている。その一つを手に取ると、じっとそれを見た。 「貝殻?」  彼女の問いに、顔を上げて頷く。 「私も綺麗なやつ、見つけよう」  彼女も僕の隣にしゃがんで、貝殻を探し始めた。彼女は綺麗な大ぶりのものばかりを手にとっては「こっち、いやこっちの方が」と見比べていたが、僕は砕けて小さくなった貝殻に惹かれた。いくつかを手のひらに乗せて見つめた。 「それ、持って帰る?」  彼女が優しい声を出したので、僕はまた頷いた。すると彼女は持っていた鞄の中からティッシュを取り出し、僕の手のひらに乗った貝殻を一つずつ丁寧に自身の手のひらに広げたティッシュの上に並べた。それを畳んで、鞄の内ポケットの中に入れた。
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