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「ねえ、ご飯食べよう」
彼女の声に僕は立ち上がり、観光地価格の海鮮丼を海沿いのあまりきれいでない店で食べた。丼から溢れる刺身は量が多く、かなり腹が膨れた。
「美味しかったね」
彼女は笑い、僕は頷いた。
再度車に乗り、少し離れた神社へと向かった。海沿いのその神社は、縁結びの神様で有名なところなのだという。
海風に酷く煽られながら石段を上ると、霊験あらたかであるという大木を筆頭にいくつかの木が生い茂っていた。さわさわとゆれる木の枝をぼーっと眺めていると、彼女が写真を撮った。シャッターの音に反応して彼女の方を見ると、その顔をしっかり写真に収められた。
写真に写った僕はとても間抜けな顔をしていた。思わず「ふ」と笑ってしまい、彼女も「ちょっと油断しすぎ」と笑った。
本堂まで歩き、賽銭を投げて目を閉じてみたものの、僕は特に願うことがなかった。思いつかないのだ。薄目を開けて彼女を見ると、彼女は懸命に何かを願っていた。僕はもう一度目を閉じて、「彼女の願いが叶いますように」と思った。
彼女と並んでお守りの売り場を見た。開運、健康、恋愛、仕事。たくさんの種類のものが売っていたが、特にどれを買おうとも思わなかった。彼女は仕事運のお守りと、健康運のお守りを買った。車に乗ってから、僕に健康運のお守りを渡し「いつまでも元気でいてね」と言った。僕は頷いた。出来る限り、努力しようと思った。
すでに外は暗くなり始めていた。車に乗って海沿いの道を走る。もはや海よりも、その海面を照らす夜景が主役の景色だった。
「ねえ、楽しかった?」と彼女は尋ねた。僕は「うん。ありがとう」と返した。
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