7.

2/2
前へ
/17ページ
次へ
 僕の口から思わず漏れ出た言葉に、僕自身が驚いた。僕は大した仕事をしていないし、結婚しているわけでもないし、家計を背負っているわけでもない。友達もいなくて、親からも期待されていなくて、だから疲れるわけなんてないと思っていた。  それなのに、何故か僕の目から涙が流れて、止まらなくなった。変だな、おかしいなと思うのに、涙は次々僕の目に雫を作って溜まり、頬をつたって顎から落ちた。ずるずるとソファーから滑り落ちるように体勢を崩し、天井を見上げた。重力に逆らって尚、僕の目からは涙が溢れる。ただその涙の伝うルートがこめかみから耳を通るルートに変わっただけだ。  僕はいつから疲れていたのだろう、と考えた。あのバンドの製作する曲の歌詞が、前向き過ぎて力強過ぎて、なんとなくしっくりこなくなったあのときからだろうか。それとも最新ゲームを追いかけずに、何度もクリアしたゲームを新しい記録でプレイし始めたときだろうか。  最近のことを思い出そうとしても、思い出せない。僕はいつ笑った? 僕はいつぶりに泣いている? 僕は最後にいつ、怒ったのだろう。  いつの間にか、僕の世界は感情(いろ)を失ってしまっていたのだと気付いた。ずうっと起伏のない、なだらかな生活(みち)を歩んできたつもりでいたけれど、もしかしてそう思い込んでただけなのかもしれない。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加