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第一章 出会い
木枯らし一号が関東地方に観測されたと、ニュースで天気予報がそう告げた翌日、白雪月冴は「横浜第一銀行」の入り口の前に立っていた。四月以来、約七か月ぶりの外の空気を吸い込む。長時間突っ立っていると怪しまれるかもしれない。もう一度空気を吸い込むと自動扉をくぐり店内へ足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ」月冴と同い年くらいの男が人懐こい笑顔を向けた。平日の午前十時頃ということもあり店内は比較的空いている。開店直後に訪れる客たちが帰った後なのかもしれない。今日は十一月十二日。銀行が忙しいと言われる「五十日」でないのもあるだろう。月冴は人懐こい笑顔を向けてくれる男性行員にゆっくり歩み寄った。
百六十に満たない身長に華奢なスタイル。胸の辺りにまで伸びた髪はゆるいカールが巻かれている。真っ白い肌は陶器のようになめらかで冬の雪を連想させる儚さである。月冴と同世代の男であれば、月冴の美しさに見惚れることは必然的だった。月冴の視線の中にいる男性行員も例外ではない。月冴の美しさに営業スマイルを携えるのも忘れて見惚れてしまっている。
『今回も楽勝ね』月冴は視線の先の男を見てそう判断した。
ライトブラウンのトレンチコートの下は同系色のワンピースを着ており、ストッキングを履いた足には黒のハイヒール。ヒールの音さえも気品が感じられる。月冴の周りだけ時間が止まっているようだった。
「あの、口座を開設したいんですけど」月冴は男性行員に微笑みながら告げた。
「かしこまりました」胸元の名札に「桜井青葉」と書かれた男性行員は真摯に月冴の口座開設に対応してくれた。
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