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その日、キールは九つ下の弟と一緒に遊んでいた。緑の梢から降り注ぐ陽光は暖かく穏やかで、いつもの日常が続いていくのだと、そう感じさせるには十分すぎた。しかしその日常も突然壊れることとなる。
「ド、ドラゴンだぁ――――――!」
突如村に現れたのは、全身を堅いウロコに包んだドラゴンだった。一頭のドラゴンは我が物顔で村の中を闊歩し、自分の進路を妨害する建物を無慈悲に破壊していく。時には口から火を吐き出し、逃げ惑う人々の様子などお構いなしで、悠々とした態度のドラゴンに、村人たちは為す術がない。
「お兄ちゃん……」
キールの弟、マルクが不安そうな声を上げ見上げてくる。キールは幼い弟の手を取ると、
「逃げるぞ」
そう言って駆け出した。
逃げ惑う村人たちの波に乗り、キールとマルクも走る。どこに逃げたら良いのか分からなかったが、とにかくここにとどまるよりはマシだ。そう思って幼い弟の手を引きながら走るキールだったが、マルクが木の根に足を取られて転びそうになってしまった。
「マルク!」
キールが慌ててマルクを抱きかかえる。しかし、足を止めたその一瞬を見逃すことなく目の前にはドラゴンが迫ってきていた。
一瞬にして村を壊滅させているこのドラゴン。
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