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「お願いします!もう少しだけっ…!!」
地べたに這いつくばるように頭を下げているこの男はさっきまで私の恋人だった男。
なんの恥じらいもなくこんなに頭を下げれるヤツだったんだなと虫唾がはしる。
「呆れる。自分が浮気したあげくこの期に及んでまだそんな事言う?」
「頼む…お前じゃなきゃダメなんだよ…!」
「その浮気相手に頼めばいいじゃない」
「あ…いや、それは…」
急に歯切れが悪く口籠る元カレシ。
「実はお前の事相手は知らなかったから…あいつ怒っちゃって…」
だから何なんだ?
なんなら私の方が怒っている。
「だから頼むもう少しだけ此処に置いてくれないか…!もう行く所がないんだ…!!メグミは許してくれないって電話にも出てくれないんだ!」
「…メグミ?ちょっと待って。あんたの浮気相手の名前メグミなの!?私が聞いたのはアヤって名前よ!?あんた三股も掛けてたの!?信じられない!!!」
激高した私に元カレシは言った。
「三股じゃない。も、もう少しだけ…」
呆れるにも程がある。
私は怒りを通り越して失神しそうになった。
「ちょっと待って…もう、頭が追いつかない。そんなに女がいて、何で私のとこへ来たわけ?だったらバレてない女の所に行けばいいじゃない」
「だって…」
また口籠る元カレシを今すぐにでも追い出してしまいたがったがもう少しだけ言い訳を聞いてみようと思った。
「お前はいつだって「もうー。ちょっとだけだよ?」って色々譲ってくれたり奢ってくれたり、許してくれただろ?だからもう少しだけなら此処に住まわせてくれるかなって…」
気味の悪い私のモノマネを入れて話す元カレシにほとほと呆れた。
「それに…」
また口籠る元カレシの続きの話は聞きたくなかったが言葉が出て来ない私は黙って睨み付けた。
他とは全部縁を切るからとか、もうお前だけを一生愛していくとかそういう覚悟があるのか…
それならもう少しだけ様子見るのはありなのかな?
そんな考えを廻らせ睨めつけていたのだが、何を思ったのか男は両手を床に付けたまま真っ直ぐ私を見て言った。
「俺、もう少しだけこの高級マンションで良い暮らしを堪能しておきたいんだ!」
それを聞いて私はブチ切れた。
「もう少しもう少しってお前がもう少しマシな人間になりやがれ!」
私と元カレシのもう少しで埋まりそうだった隙間は埋まらなかった。
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