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ぶり大根の美味しい食べ方
「なにしてるの、そんなとこで」
なんだか子供のような無邪気な母さんの様子に、ほっと息をついて尋ねる。テーブルの下でものを食べるのはお行儀が悪いと、小さいころに教えてくれたのはこのひとではなかったか。
「母さんね、智にぶり大根の一番美味しい食べ方を教えてあげなくちゃと思って帰って来たの」
ぶり大根の一番美味しい食べたい食べ方? そんなことより訊きたいことがあるような気がしたが、なにが訊きたかったか、もう思い出せなかった。母さんは、机の下に座ったきりで動こうとしない。母さんが僕を見上げていて、僕が母さんを覗き込んでいる。なんだか奇妙だ。
「ね。知りたいでしょ? ぶり大根の一番美味しい食べ方」
「う、うん……」
と言ってもぶり大根はぶり大根だ。それ以上でも以下でもなかった。いつも食卓で囲んでいたとき以外の食べ方なんて想像できなかった。「一番美味しい食べ方」とやらをいままで秘密にしていたなんて、母さんも結構お茶目だな。
「では、一。温かいご飯をお茶碗によそう」
「は、はい」
炊飯ジャーを開けると湯気が立った。そのご飯を茶碗に盛る。
「二。冷たいままのぶり大根をその上にぶっかける」
ぶっかける? ご飯の上になにかをぶっかけて食すことを好まなかったのは母さん自身だったはずだ。家ではカレー以外はご飯とおかずは別々に出てきた。たまに僕がご飯の上に味噌汁をかけようとすると、母さんに手を叩かれたものだった。
「なにしてるの、智。早く!」
「は、はい」
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