ぶり大根の美味しい食べ方

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 改めてぶり大根の鍋を覗くと白濁して固まっていた。表面の大根は見えるし、ぶりも見えるがこの白っぽいゼリー状のもののなかに埋まっている感じだった。 「ぶり大根の一番美味しいところはぶりでも大根でもないの。ぶりと大根の間のにこごりなの」  にこごり。このゼリー状のものはにこごりというのか。母さんは相変わらずテーブルの下から話しかけてくる。 「温かいご飯の上にぶりと大根とにこごりをごそっとよそって」 「はい」  ぶり大根の鍋におたまを突っ込むと、にこごりは結構弾力があった。にこごりをおたまで切って、ぶりや大根と一緒にご飯の上に乗せた。 「三。にこごりが溶けないうちにほおばる」 「はい」  箸と茶碗を持ってテーブルについた。母さんと一緒にフローリングの上に座るべきなのかどうか少し迷ったが、なんとなく椅子に座ってしまった。足元に母さんがいる食卓に僕は座っていた。 「智。早くしないと溶けちゃうよ?」  左手に持っている茶碗を見ると、にこごりが溶けかかっていた。白い固形物だったにこごりは茶色い液体に少しだけ変わっていた。ごはんの熱で溶けてきたのだ。  一口食べて驚いた。うまい。口のなかでにこごりが溶けてごはんと融合し甘く広がった。冷たいゼリーと温かいごはんが絶妙なハーモニーを奏でた。僕がいま食べているものはぶりという魚の旨みだけを取り出したものであった。
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