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物語のおわり
「母さん? 母さん!」
ダイニングを探しまわり、リビングもまわり、台所も探した。
母さんはどこにもいなかった。母さん、いま消えてもらっては困る。もっともっと母さんと話したかったことがあるんだよ……。
ようやく諦めてストーブの前に座った。僕にとって母さんとの最期の会話はこのぶり大根飯ってことになるのだろうか。気がつくと僕は嗚咽をもらして泣いていた。
と、携帯が鳴った。表示を見ると父さんからであった。ひと呼吸して覚悟を決めてから電話に出た。
「もしもし……」
「智か? 母さんの意識が戻ったよ! たったいまだ」
意識が戻った……。もう父さんの言葉を聞いていなかった。
母さんが伝えたかったことは。
いや、尋ねるのはやめようと思った。自分で考えてみよう。
僕はテーブルの下の茶碗を眺めやった。こころの奥が、ぐっと強く温もった。
≪了≫
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