第一章:薬剤師ダミ子の日常

2/9
前へ
/79ページ
次へ
「こらぁ! ダミ子! あんたはまた爆発させてぇ!」 同僚のカモミールが元々鋭いツリ目を更につり上げてこちらへ走ってくる。 その手には箒とちり取りを持っていて、素早く周囲に散らばった破片を片付ける。 「今月始まって何度目よ!? 研究所の修理代だってバカにならないのよ!」 「いや~、すまんすまん」 「もうっ」 カモミールはダミ子を叱りながらも手際よく後始末をする。慣れた手つきなのはダミ子が研究所を爆発させた回数に比例するわけで。 せこせこ、と片付けをする同僚に比べて研究所を半壊させた張本人のダミ子は呑気に腕を組んで考え込むように呟いた。 「今回は何がダメだったんだろう……配合量もちゃんと守ったのに」 ブツクサ。 「ゴニョゴニョ言ってないであんたも手伝いなさいよ。どうせまた仕事と関係ない実験してたんでしょ」 「うん。身長を三十センチ伸ばす薬の開発」 「それ誰が必要とするのよ……」 「全世界の身長が控えめの紳士たち。こういう地味な悩みを抱えている人は多いからね」 小じわを消す薬然り、シミを隠す薬然り。 「大それた研究もいいけど、地味なコンプレックスを解決する薬の方が需要あると思わないか?」 言ってやったぞと言わんばかりに胸をのけぞらせるダミ子。その胸は薄い。 カモミールは呆れまじりにため息を吐く。 「ていうか、思いきり私用だし。国のお金を個人の研究に使ったらアウトじゃない?」 「む」 手渡された箒で塵を集めながら、ダミ子は同僚に反論する。 「それは違うよカモミール。私はあくまで実験器具だけを借りているだけ。材料費はちゃんと個人負担してる。断じて職権乱用なんてしてない」 「まず仕事そっちのけで趣味実験してるのがアウトだっての!」 頭を軽くはたかれた。 うぐ、正論。
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加