第八章:スカピー火山と菓子降る友情

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ダミ子、マース、オレガノ、タイムの四人はエプロンを装着していた。 火山の頂上は即席キッチンと化していた。 『クッキー大噴出作戦~アレを見ろ! 空からクッキーが降ってきた!!~』 我々は今からこれを実行する。 経緯はシンプル。 村人全員に配るにはコスパ良く大量生産できるもの。これはダミ子の意見だった。普段の発明もこれをモットーにしている。 大量生産するなら菓子類がベスト。特にクッキーやドーナツなどの焼き菓子や揚げ菓子類は材料さえ揃えば大量生産がしやすい。 問題はインパクト。クッキーを配ったところで村人たちがすこぶる喜ぶとは限らない。 そこで目をつけたのが火山だった。 この地の利を使ってクッキーを最高のサプライズにする。 これに関してドラゴンに協力を頼むと快く引き受けてくれた。 「君たちも、手伝ってくれるんだな」 当然のように作戦に参加しているタイムとオレガノにダミ子は温かい目をやる。 「まーね。お菓子作り大好きだし」 「君も、あれほど嫌がってたのに。偉いじゃないか」 「フン」タイムは偉そうに腕を組み、 「ここで何もしなければお前たちに手柄も逆鱗も奪われそうだからな」 「タイム……僕が見ない間に成長したな」 「偉いわ兄さん」 「俺お前らの子供!? それに勘違いするなよ!」 ズビシ! 指をさす。 「誠に遺憾であるが俺は嫌々手伝ってやるんだ。嫌々、手伝ってやるのだ!」 必要なことなので二回言った。 「はいはいわかってるよ」 なんか時代を感じるキャラだなこの人。 懐かしいノリが心地好い。 「……それでどうする? 道具があっても肝心の材料がない」 律儀に三角巾をかぶるタイムが聞く。 大きめの平らな岩石の上には計量器とボウル、まな板にめん棒。調理器具がズラリ。 問題は菓子の材料。クッキーに使う小麦粉や卵などがここにはない。 「あーそれね。試しにスヤスヤ村住民全員分のクッキーの量を計算してみたんだけど」 ちなみにスヤスヤ村の住民は全員でちょうど500人。 全員分のクッキーに必要な材料を計算すると、 「一人分の量×500で、小麦粉15000㌘、バター7500㌘、砂糖2500㌘、牛乳2500㌘」 「「「多!」」」 グラムがキロ単位に換算可能! 「ふざけてるのか!? そんなに貯蓄のある店があるわけないだろ!?」 タイムの憤りにダミ子は待ってたとばかりに得意気に答えた。 「ところがどっこい。店だけとは限らないんだな。強力なスケットを思いだした」 「は? スケット?」 「君たちも前に会ったじゃないか“彼”に」 貯蓄と聞いて思い出す存在。 脳裏に過るのはのんびり走る軽トラ。 「おまたせ~」 「わざわざすまない村長」 大型トラックに乗って頂上までやってきたのはナマケモノの町のミユビ村長だった。 ダミ子は貯蓄と聞いて真っ先にナマケモノの町を思い浮かべた。 あそこなら小麦粉や卵などストックをもて余してるはず。オレガノの魔法通信機を借り村長宅の無線に連絡してみると、 「いいよ~。たくさんあるから持ってくぞーい」 数日待たされ村長スカピー火山に無事到着。 「大きくなったのダメ子さん」 「ダミ子だ。そんな短期間で成長してたまるか。こちとら成人だぞ」 「お久しぶりです村長さん! 町の皆さんはお元気ですか?」 「元気元気。皆お主らに感謝しとるよ。今日はたんと使っとくれ。んん? おや、そこの二人は……」 「「ギク」」 目線から逃れるようにタイムとオレガノは目をそらし汗を浮かべる。 「垢をとるとせっかく整った爪を魔法で伸び伸びにしたお二人でないか」 「何やってんのあんたら」 「だってしょうがないじゃない!」 オレガノが抗議する。 「ちょうどメガ子たちが垢とった後だったから! 私の魔法で爪の成長を促進させたの」 「ほれ」 ジャキーンッ!! 長老の爪は武器のように尖っていた。 「成長しすぎだろ!」 「オレガノの得意魔法は《促進》だ。再生と違い時間を早送りすることで傷の修復もできる」 「ほお~すごいのぉ」 タイムの説明に感心する村長の爪を研いでやる。 「この二人とはライバルなんだけど、わけあって共同戦線、今は楽しくクッキーを作る運命共同体だ」 「ほほう。仲良きことは良いことじゃな」 朗らかに笑う村長はさして気にもとめてなく、怒りの感情はなかった。 その態度に毒気を抜かれたタイムとオレガノは気不味そうに口をもごもごさせ頭を下げた。 「すまなかった。急いでるといえ、失礼なことをした」 「ごめんなさい」 「いいよ~。村の連中もネイルアート文化に目覚めて楽しんでるから」 なんてポジティブ! なんて素敵な生きものたち! 「完成したら村長もクッキー食べてってよ。運転のお供と町へのお裾分け用にお土産も渡したいし。かなり時間かかるけど」 「待つのは得意じゃ。いくらでも待つぞー」 よろしこ、とドラゴンに挨拶する長老。 「む、むう」ドラゴンもヨガ体制で挨拶を返す。 「ユニークな体勢ですな」 ヨガのポージングを真似するナマケモノ。 頂上の一角でほのぼの老人会。 「じゃ、つくるぞ」 ダミ子が号令をかけると、 「あーその前にいいか」 村長とヨガをとるドラゴンが声をかけた。 「話してないことがあった。逆鱗のことなんだが」 材料をかきまぜ生地をこね、型を抜き、天板に並べ、息も絶え絶え、半日かけて四人は500人分のクッキーを焼く手前まで進めた。 あとは天板にのる生地を焼くだけ。いよいよ仕上げ段階だ。 ここが一番の正念場。 『クッキー大噴出作戦~アレを見ろ! 空からクッキーが降ってきた!!~』の骨格となる。 「頼んだぞ」 「ああ、まかせろ」 仕上げの作業を担うドラゴンが首肯いた。 「危ないから全員スヤスヤ村で待っててくれ」
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