23人が本棚に入れています
本棚に追加
「それより随分慌ててたようだけど、私に用があるんじゃないの?」
「そうだ! ダミ子さん大変です!」
「だから何がさ」
「“セージ”様が永眠病にかかってしまったんです!!」
「セージが?」
その名前を聞いてダミ子の眉がわずかに歪む。
セージ。二十六歳。職業は鍛冶屋の跡取り。鍛冶屋生まれなのに力がなく弱音ばかり吐いて、いつも親父に怒鳴られている情けない青年。
ダミ子の婚約者である。
「それで、彼は無事なのか? 彼のことだから瀕死状態だとか……」
「いえ、今のところ永眠病の特徴通りグースカと眠っているだけです。僕が駆けつけた時にはもう夢の中でした」
「あと、彼がダミ子さんにこれを……」マースが懐から出した白い封筒をダミ子に渡す。
封をする箇所には薔薇のシールが貼られていて、キザな婚約者からのものだとすぐわかる。
「なんだ? 手紙か」
「愛するダミ子さんの為に最後の力を振り絞って書いたんですよ……」
ホロリ涙を流すマースを軽く無視。封の中身を広げる。
手紙にはこう書かれていた。
『~愛するダミ子へ~
僕はどうやらここまでらしい。
不治の病にかかってしまったからね。
願うことなら君にもう一度会いたかった。
しかしそれも叶わない運命だった。
ダミ子、君だけはどうか無事で……ぐぅ』
手紙はそこで途切れていた。
「おいたわしやセージ様……!」
「最後のぐぅってわざわざ書かなくていいだろ」
婚約者のピンチだというのにそこが気になって悲しさをそこまで感じない。
最初のコメントを投稿しよう!