第八章:スカピー火山と菓子降る友情

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一向が上空からスヤスヤ村に降りる。トラックを村の隅に駐車させた長老と落ち合うと同時に、火山が噴火した。 腹の底に響くような轟音をたて火山のてっぺんから炎と同時に何かが噴き出た。 火山弾ではなく、クッキーだ。 噴火した火山の口から大量のクッキーがスヤスヤ村に降り注いだ。 「クッキーだ!」 「空から大量のクッキーが降ってきた!」 「スゲーっ! なんだコレ!?」 「これ食べられるの!?」 みるみる村人が外に出てくる。 空から降る焼き菓子に全員目を丸くしてる。 「スヤスヤ村のみなさーん! このクッキーはスカピー火山のドラゴンが皆さんと仲直り気持ちを込めたクッキーです! ぜひ食べてください! 品質安全は一緒につくった私たちが保証します!」 「なに? あのドラゴンが……?」 「本当に食べて大丈夫?」 「なにか入ってそう」 「ちょっと怖いかも……」 あらら、信用されてない。 「すごーい! おいしい!」 躊躇う村人と反対に子供たちは大はしゃぎだった。 ぱくぱくとクッキーを頬張り花の咲いたような笑顔を見せる。 「このジャムクッキー美味しい! こっちのマーブル模様のクッキーもイケる!」 「あ、僕が作ったやつだ」マースはどこか照れた表情をした。 「このクッキーお花の形してる! 「こっちは星にウサギさん。 可愛い~」 女の子たちは可愛いデザインのクッキーに釘付けだ。 「私が作ったやつね。ふふん。見る目あるじゃない」 見た目の華やかさで心を掴もうとオレガノが作成した型抜きクッキーは子供たちに大ウケだった。 「お、俺の作ったクッキーは?」 一人だけ自分の制作したクッキーが見つからないタイムがキョロキョロ辺りを見渡していると、 「おい見ろよ! あの畑に降ったクッキーのおかげで作物がすこぶる元気になってるぞ!!」農家っぽい人が叫ぶ。 炭のように焦げたクッキーがそこにいた。どんな原理かクッキーをかぶった作物はぐんぐん育ち生き生きとしていた。 「俺のクッキーッッ!?」 「もう限界だ! 俺も食べる!」 美味しそうにクッキーを食べる子供たちを見て村人の一人がクッキーをキャッチして口に放り込んだ。「ウマーい!!」 ごくり。それを見た村人たちはついに甘い薫りを放つ焼き菓子に手を伸ばした。 「本当だ。うまいじゃないか」 「甘~い。サクサクしてる~」 「なんだこのクッキーすごいもたれるぞ!?」 「よーしあのクッキーとるぞ。 ジャーンプ!」 村の人たちは大喜びだった。 どうやら作戦は上手くいったようだ。 ただ一人、険しい顔をして火山を見る人物がいた。 「お前たちの仕業かい?」 「バジル婆さん」 「こんなことしたって私の意思は変わらないよ」 「まあそう言わずクッキー食べてくれよ。ドラゴンも悪気は……あったかもしれないけど、度胸試しに訪れた挑戦者たちに商品をあげたかったんだって。完全な私利私欲ではなかったんだよ」 「どんな理由述べたって盗みは盗みだ。罪ってのは帳消しにはできんね。このクッキーみたいに甘っちょろくないんだよ」 やはりこの人が手強い。 呪いをかけた張本人なだけある……と思いきや、 「……ん? これは、」 呪いの館の隣にある畑に目をやる。 バジル婆さんの畑らしく、そこには《バジルのカボチャ》と土にさされたプラカードの側にカボチャが育てられてある。 カボチャの上には黒い焦げたものが被さっていた。 タイムのクッキーだ。 「これは……!」 カボチャがみるみる大きくなっていく! 見事な艶とハリを得たカボチャはとんでもなく良い作物へ成長した。 「おおお……」 その光景を前にバジル婆さんは震える。 「これは、火山灰よりも多くの栄養を兼ね備えた、伝説の焼き畑……!?」 「えっ」 クッキーですが。 「この焼き畑があれば、いつでも質の良い作物が育て放題じゃないか……むむむ、これを作ったのは!?」 「「こいつです」」 タイムを前に出す。 「???」タイムは狼狽えている。 「来年分の焼き畑もここに持ってくると約束するなら呪いを解いてやろう」 「わかりました。来年もコイツに作らせます」 「のった!」 「おい! 勝手に話を進めるな!」 「おい金髪の小僧!」 「えっ、あっ、はい!」 「あんたの肥料を作る才能は並じゃない。来年も頼んだよ。次から報酬は弾むから。期待しとる」 「は、はい。来年も来ます頑張ります」 彼女の気迫に圧され思わず二つ返事してしまうタイム。彼の副業が決定した瞬間だった。 「俺にこんな才能があったなんて……」 満更でもないのか、彼の目は心なしか輝いて見えた。 「世の中ってどうコトが運ぶかわかりませんね」 「焼き畑がMVPなんて前代未聞だぞ」 最低なファインプレーは世界の平和に貢献した。
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