23人が本棚に入れています
本棚に追加
「タンマ!」
「……何の呪文だか知らんがなんの効果もないのは事実」
マースは攻撃を再開しようと魔法を発動させる。
「これで終わりにしよう。【炎龍の咆哮】!!」
しかし魔法は放たれなかった。
「なッ!?」
「ふふふ……やっと気づいたか。この魔法の恐ろしさを」
タイムは不敵に笑う。
「【死語】は全ての魔法発動を阻止することができるのだ。さあ、もう魔法は使えないぞ! こっからは俺のターンだ!」
タイムの魔法攻撃がマースに襲いかかる。
「くッ」
マースが圧され始めた。
魔法を使えない彼はタイムの魔法をひたすら避けるだけ。
「勝負あったか」
「いや、ちょっと待って」
タイムの顔が描かれた旗を上げようとするドラゴンを制する。
「マースくん、まだ諦めてない」
マースの瞳にはまだ闘志が宿っている。
傷だらけになりながらもタイムに対し背中を見せなかった。
彼はまだ戦おうとしている。
「あ」
「どうした嬢ちゃん」
「いや、兄さんの【死語】ってさ、魔法を無力化する魔法でしょ」
兄の攻勢を見てるのに、オレガノは冴えない顔をしていた。
まるで気づいてはいけない何かに気づいてしまったような顔をしていた。
「あ、嬢ちゃんも気づいた?」
そう。
自分たちは気づいてしまった。
「ぐぺらッ!」
ちょうどタイムが吹っ飛ばされた。
マースは握り拳をつくってタイムに顔面パンチをお見舞いした。
簡単なことだった。
全ての魔法が封印される。
これは逆に返すと、封印されるのは魔法のみ。物理攻撃は可能、ということ。
魔法が使えないなら物理を使えばいいじゃない。
吹っ飛んだ先のタイムに更に追い討ちの往復ビンタ。
「ちょ、タンマタンマ!」
ある意味一番正しい本来の使い方をするタイムだがマースは止めない。時々摘まんだりして奴の顔面を弄ぶ。
タイムもやられっぱなしでなく、「バカー!」と物理で応戦した。
「っ!! 」
同じく顔面パンチを喰らったマースがまた一撃を加える。タイムもやり返す。
「バーカ! ちっとも効いてないんだよさっさと降参しろ!」
「お前こそ! 自慢の顔がボコボコになる前に降参したらどうだ!」
「お前が降参しろ!」
「お前がしろ!」
物理の殴り合いによる第二ラウンドが始まった。
「ナニこれ小学生?」
「男なんて皆子供よ」
呆れた目でダミ子とオレガノは野郎同士のボコり合いを傍観する。
「バカにしやがって! いつも澄ました顔で上に立ちやがって。ネムーニャにいた時だってそうだ!有終の美を飾ってサッと姿消して、ずっと勝った気でいたんだろう!? 残された下の者のことも顧みずに……余裕ぶっこいてさぞ気分よかったろうな!?」
「うるさい! 誰が余裕ぶっこいてるか!? お前だって邪魔者の僕がいなくなって嬉しかったんじゃないのか!?」
「誰が繰り上げの首位で満足するか! バーカバーカおたんこマース!」
「誰がおたんこマースだ!」
「好きな女に告白もできないヘタレ!」
「ほっとけよ!」
「バーカバーカマースのバーカ!」
「韻を踏むな! 語呂よく言ってんじゃねー!」
左頬を狙ったのにズレて鼻っぺしを殴ってしまう。
「あ、ごめ……」
鼻血を垂らす相手に思わず謝ってしまうとタイムの瞳から涙が零れた。
「た、タイム? 大丈夫か」
「うわあぁあああん!」
年甲斐もなく目の前の青年は泣き出した。
「俺は友達だと思ってたのにー! お前が急にいなくなるから! 裏切られた気持ちで悔しかった!! ライバルとして切磋琢磨して互いを磨き合えてると嬉しかったからっ、お前もっそう思ってくれてると思ってたのに~!!」
「タイム、お前……」
そう思ってくれてたのか、マースは呟いた。
同僚の本音を初めて聞いた。
「なのに、なのに、勝手にいなくなってんじゃねー……っ」
タイムは白目を向いて倒れた。
「タイム!」
倒れる相手を抱き起こそうとするも、マースも気絶するようにその場で倒れてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!