第九章:イバラの森の魔女

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イバラの森の前にドラゴンが待機していた。 「いるーッ!?」 「いや、おるよ。帰りこそ大変だろうに。グゥスカまで遠いだろうに」 「あ」 確かに。帰りのことを考えてなかった。 「ワシがいればグゥスカまでひとっ飛びじゃ! ヘイ、カモーンライド!」 「「サンキュー!!」」 「ただいま戻りました!」 グゥスカ王国に帰郷し一目散で玉座へ向かった。 「おお、帰ってきたか!」 王様はダミ子とマースの帰還に「よくやった!」と両手を挙げて喜んだ。 「これで我が国はまた一つ躍進する!」 エゴの塊を第一声で放つとはなんて国王だと苦虫を噛み潰した顔で二人ははしゃぐ国王を見た。 「よし! さっそく秘薬(メザメール)をつくるのじゃ!!」 研究所の扉を開けると入口付近にいた厳しき同僚が驚きのあまりビーカーを落とした。 「ダミ子、マースくん! あんたら帰ってきたの!?」 「ああ、久しぶりカモミール。驚け私は世界を救う薬を開発した」 「まだこれから作るんでしょ。ただいま戻りましたカモミールさん」 「おかえりマースくん……って! は!? ええ!? あんたらマジで永眠病(スリーピング・ホリック)の特効薬つくれることになったの!? 絶対有給とって自分の発明勤しんでると思ったのに!」 「ああ懐かしいな。この遠慮のない失礼極まりなさ」 「グゥスカに帰ってきたって感じがします」 「ほっこりすんな! と、とにかく研究所の皆総動員させるから!」 王室研究所薬剤師、全員集合! 全知の森の妖精から貰ったレシピ通り、ダミ子たち王室薬剤研究所の薬剤師たちは薬の製作に励んだ。 三日三晩ほぼ徹夜で薬はついに完成した。 【秘薬(メザメール)を開発した!】 「セージ!」 「ZZZ……」 セージ宅に乗り込みベッドに眠る セージに完成したメザメールを飲ませた。 「……う」 セージの瞼がぴくりと動き、次第に閉じていた瞳が開いた。 「なんかよく寝た~! おはようダミ子! 超いい朝だね!」 「いや夕方だが」 マイペースな婚約者の起床に反射神経でツッコミを入れる。 「大丈夫かセージ? どこか具合が悪いところとかないか?」 「平気さ! ぐっすり寝てすっきりだよ」 「そうか、よかった……」 ほっと胸を撫で下ろす。 よかった。薬の副作用はないようだ。 ほっとするダミ子を見てセージは花瓶にさしてあったバラを咥え、 「ダミ子が目覚めさせてくれたんだね。さすが僕の愛するフィアンセだ」 「あーはいはいどうもどうも」 復活した途端カッコつける婚約者をいつもの要領でスルーした。 「やりましたねダミ子さん! セージ様も目を覚ましたし、メザメールは治療薬として成功です!」 「ああ。これを量産すれば他の国の永眠病(スリーピング・ホリック)の人たちも救える!」 マースとハイタッチをした。 「よし、さっそく国王と研究所に報告して……」 「ぐぅ」 「あれ、セージ?」 「ZZZ……」 ベッドを見ると、セージは再び眠ってしまった。 「おい! どうした! 狸寝入りか? 目を覚ませ!」 揺すり動かしてからの往復ビンタで叩き起こそうとするも、セージが目を覚ますことはなかった。 「どうしてまた眠ってしまうんだ!?」 「ダミ子さん、あれ」 マースが窓の外を指さす。 街の人たちが次々と倒れていく。 「おいどうした!」 「イビキ? 眠っているのか!?」 倒れる人に駆け寄る通行人が叫ぶ。 次の瞬間、「ぐぅ」通行人も眠ってしまう。 「これは……」 「永眠病(スリーピング・ホリック)の症状……!?」 部屋の外で大きな音がした。廊下に出るとセージの父親が大イビキをかいて床に転がっていた。 「親父殿!」 「どういうことです!? メザメールは効いてなかったんですか? それに、どうして一斉に眠りにおちる人が!?」 「……とりあえず王室へ行く。メザメールの結果と現在起きてる事態を報せる。マースくんは倒れてる人たちに二次被害がないか確認、安全なところに移動させるんだ」 グゥスカ城へ戻ると、城内は異様に静かだった。 床には倒れ眠る人たち。兵士も執事もメイドも全員眠りに落ちている。 「ここもか……」 玉座に座ったまま国王は鼻提灯を膨らませていた。周囲の護衛も立ったまま眠っている。 「……!」 最後の砦と思っていた薬剤研究所に駆け込むも、希望は儚く散った。カモミールも他の薬剤師たちも床に伏せるようにそれぞれ倒れていた。 「……っ……っ!」 ダミ子は走っていた。 あの場所は。あの場所だけは。 私の居場所。大切な唯一の家族。 「お願いだ。無事でいてくれ……!」 自宅のドアをノックする。返事は返ってこない。 ドアノブに手を伸ばすと鍵がかかっていた。用心深い祖父は家の中にいるときでも鍵をかける。 外出中の可能性も視野に入れたが現在は夕方。既に夕日が沈みかけている。 「ん?」 何かがドアの内側から聞こえた。 「この機械音。ゆロボだ」 小さく機械音が何かを呼んでるように聞こえた。 呼ぶ相手なんて、一人しかいない。 「じいさん!」 自分の持つ自宅の鍵でドアを開ける。 家の中は静かだった。 「あ……」 そこには。 まるで、死んでいるかのように祖父は床に座り込んで眠っていた。 『じーじ、じーじ』 ゆロボが祖父の傍らで祖父を呼んでいる。祖父は眠ったまま返事をしない。 「ダミ子さん!!」 肩を強く掴まれた。 いつの間にかマースが目の前に立っていた。 「マースくん……」 「城に行ってもいないからもしかしてって思って……大丈夫ですか? 顔が真っ青ですよ」 「祖父さんが……祖父もダメだった。眠ってしまっていた」 「!……そうですか」 震える肩を抱くようにマースはダミ子の身体を引き寄せた。 「大丈夫です。絶対目覚めさせましょう。お祖父様も、カモミールさんや研究所の人たち、グゥスカ王国の人たちも皆目を覚ましてくれます。僕たちはまだ起きてる……だから、」 「……」 温かい。 いや、自分が冷えきっていたのか。 信じられないことが次々と目まぐるしく起きて、心が凍てつくような心地だった。 今は人の体温が感じられることが一番安心感を得られた。 「ありがとう。もう、大丈夫だ」 そっとマースから離れ、ダミ子は気を引き締めた。 「そうだな。起きてる私たちがしっかりしないとな」 (大丈夫だ。幸運にも私たちは眠りに堕ちてない) 自分たちにできることはまだある筈だ。 「おーい!」 空から声がした。ドラゴンがこちらに向かい飛んできた。 「ドラゴン!」 「どうしてグゥスカ王国に!?」 「大変じゃ! あれから村で婆さんとエアロビをしてたら、婆さんが突然眠ってしまったんだ! 村の連中も同じだ。急に倒れて眠り続けている!」 「! グゥスカ王国だけじゃない……!?」 ドラゴンの話によると。 ここに来る途中他の村や町の様子を見たが、どこも同じで眠りに倒れる人々だらけだったという。 「世界中の人たちがどんどん眠りに堕ちてるってことか」 「世界中で何が起こってるんですか……!?」 秘薬(メザメール)は効かなかった。 それどころか世界中で永眠病(スリーピング・ホリック)にかかる患者が急速に増え始めている。 このままでは、全世界が永眠病(スリーピング・ホリック)によって眠りに堕ちてしまう。 「何が起きてるんだ……一体どうすれば!」 ドラゴンは二人に背を向けて翼を広げる。 「乗れ! 【全知の森】へ行くぞ! 全知の精霊なら何か知ってるかもしれない!」
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