第九章:イバラの森の魔女

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「ほほう面白いこと言うの坊主。意思とはつまりこの病は人の作為によって出来たものというのか」 「意思なんぞで病が蔓延できるのかえ? ハートでウイルスが蔓延するなんて妾聞いたことないのー」 「わ、わかりません。根拠や確信などではっきり言えないんですけど、なにか変だな……って、直感というか違和感というか僕の中で引っかかりを感じていて……」 ドラゴンと精霊の圧に押されながらもマースがたじたじと見解を述べた。 「“意思”ねぇ……」 確かにメザメールの特効薬投与からの回復、病の急変の早さは不自然なものがあった。 永眠病(スリーピング・ホリック)が誰かしらの意思で作為的につくられた病。 「いいやありえないだろ医学的に。世界中を巻き込む病気を意思で? だとしたって一体誰が……」 『早く目を覚ますといいわね』 「っ……!?」 なんで。 (なぜだろう) あの時イバラの森の塔で話した女性の言葉が記憶の奥底で蠢いた。 (どうして今思い出したんだ) あの時の女性のほの暗い表情、言葉がなぜかダミ子の中で引っかかっていた。 引っかかりを感じていたのはもう一つ。それはあの女性自身のこと。 (あの人の顔、初めて会う前から、どこかで見たことあるような気がしたんだ) ダミ子が思案する後ろでなぜかマースはいきなり背負ってたリュックをガサゴソあさり始めた。 「おいこのガキンチョ急に荷物を物食し始めたぞ!」 「ワシらがつっつきすぎたから……!?」 挙動不審な助手の様子に精霊とドラゴンが怯えていた。 「マースくん何してるの」 「これじゃないあれじゃない」 土を掘るもぐらのように一心不乱にリュックの中身を地面に並べていく。何かを探してる? 「あった! これですダミ子さん!」 「何お腹でも空いてたの……って、これ、」 「あの女性、どこかで見覚えあると思ったんですよ! これです」 彼が手に持つのは一本の瓶だった。 アンゼリカの街でダミ子がお土産に買ったシャンプーの瓶だ。 『聖女のシャンプー』 そう記された瓶に描かれる女性の絵と塔で会った女性の姿が瓜二つだった。 髪型や服装などは違うが雰囲気や柔らかく微笑む表情に面影がある。 「誰かに似てると思ったんですけどこの人ですよ。【聖女・ローズマリー】。イバラの森の塔にいた御嬢さんはこのローズマリーにそっくりだったんです!」 ローズマリー。 百年戦争を止めた二人の英雄のうちの一人。 勇者トグルマと共に魔王を倒し、伝説としてアンゼリカの街で称えられている聖女。 「この見覚えはシャンプーのパッケージからだったのか」 「はい。なんか初めて会った気がしなくて頭の中でずっともにょもにょしてたんです」 「よく思い出せたな」 どうやらマースも気になっていたらしい。 塔の女性に疑問を覚えたのは自分だけではなかった。 「って話脱線しすぎだろ。いや確かに似てるし納得したけど、ローズマリーは百年前の英雄だぞ。生きてるわけないし、仮に同一人物だとしても今の永眠病(スリーピング・ホリック)の話と何も関係ない……」 「なにローズマリーじゃと?」
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