12月9日、朝

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12月9日、朝

朝のホームルームが始まろうとする。 今日も帰宅部の僕は、ホームルームが始まる8時40分ギリギリに教室に着いた。 僕は息を少しあげて、バッグを席にちょうど置いたところで、担任の加藤がガラガラとドアを開け入る。なんだか少し厳しそうな、怪訝な表情をしていた。 「ほら、みんな、席について」 加藤の声色はいつもより強いものを感じた。 それにクラスも気づいたのだろうか、いつものうるさい教室の雑音が引くスピードが、いつもより早く、教室に出入れする人もそそくさとした。 皆が自席に着く中で、原の姿がない事に気づく。人で埋まった教室に、原の席だけがぽかんと開いていた。 クラスが完全に静かになったタイミングで、時刻は8時40分を指した。 「まず、一つ君たちに伝えなければならない事があります。」 加藤は神妙な面持ちで話始める。 「昨日、原修平が亡くなりました。」 この言葉を耳にした一瞬に、思考が停止して、固まる。 異常事態におけるクラスの独特の雰囲気と雑音が耳をする抜ける。 「ほら、静かに。…原持病で喘息あったろ。あれが昨日急に酷くなってしまったらしい。…まず詳しいことや、色々なことは、変な詮索はしないこと。いいな、お前たちもわかるだろ」 加藤が何か言葉を発している事実だけがわかった。 「俺も、クラスメイトが亡くなった経験は初めてで…」 加藤は声を籠らせ、言葉を詰まらせた。 僕の思考の固まりは段々と解け、脳は事を理解することを始めた。 クラスは静かになり、皆下を向いたり、ただ加藤を見たりとそれぞれだった。 「でも、さ、すぐには無理だけど、前を向いていく必要があると思うんだ。原の分まで」 加藤の声色は籠りつつも、半ば通常に戻っているようなものだった。 「みんなで一度、原に黙祷しよう」 加藤はそう言うと、シンっと静まり返った教室で、皆が手のひらをあわせる音が教室を包んだ。 「1分間かな、黙祷」 手を合わせる行為が何故かできなかった僕だけが唯一、クラスにポツンといた。
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