12月9日、放課後

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12月9日、放課後

帰りのホームルームが終わった。 原の件については、とりあえず今日一日、クラスは少しばかり暗い雰囲気だった気がする。 でもこれも数日立てば、元通りになる。その証拠に、皆昼休憩はいつもと変わらない喧噪だった。 他クラスから教室に入ってくる奴の口から、原修平という単語を何回か聞いた。 死因については、よくわからない。ただ持病の喘息が酷くなった。これしか今はわからないし、今後も原の家が、葬式やその死因について詳しいことを言うか現時点ではわからなかった。 とにかく原修平は死んだ。 掃除のためトイレに向かった。 掃除用具入れには、昨日放り込んで入れといたはずのトイレブラシが、キチンとS字フックにかけてあった。これを取り出し、トイレ内に向かう。 便器を一つ一つ丁寧に掃除する。 これが終わりモップをかける。 掃除用部入れにモップを戻しに行くと、そういえば昨日ゴミ出しの日だったなと思い、横のゴミ箱に目をやる。新しいゴミ袋に変わり、奥のほうに溜まるゴミだけが見えた。 教室に戻り、バッグをとる。いつものように、逃げるように教室を出ようとする。 が、今日はやめた。一人自席に戻り、ぼーとした。 クラスの喧噪がまだ、うるさい中で僕は一人ぼーっとした。 時計が動く。 チクタク、チクタク。 何分か立って、人の出入れが少なくなり、人数が減るにつれて、段々教室は静かになっていく。 また、時計が動く。 チクタク、チクタク。 時計が動く。 チクタク、チクタク、チクタク、チクタク。 やがて教室窓から見える冬空は暗くなった。 いつの間にか、教室は僕一人がポツンと座っていた。 静まり返った教室、外廊下には人の姿はない。 ぼーっとする視線は、無意識に斜め横の原の席をみた。 ぼーっとして、時計の針の音だけが教室を支配する。 針の音がする。ぼーっとする。ぼっーとして、またぼっーとする。 ぼっーとする。下を向く。 ぼーっとして、そして、涙がでた。 ツウーっと流れる涙が頬を伝う。 あふれんばかりの涙がこぼれた。 今日、言葉を出すために開いた覚えのない口元が、もごもごと動こうとする。 粘りを含んで固まる口から少しの嗚咽が漏れる。 「昨日さぁ…トイレ…帰って…ごめんなぁ…」 声がでた。 「あと、もう少し」 「もう少し話したかったなぁ」 「もう少しだけ」 時計の音が聞こえる。 チクタク、チクタク。 そして、涙は出る。がピークは過ぎた。 嗚咽も止まった。止めた。 「もう少しだげ、一緒に…いだかっだなぁ」 冬空が一層暗くなった時間の教室に、言葉とはわからない音を、僕は呟いた。
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