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12月8日、6限
休み時間になり、僕は机につっぱして寝ているフリをする。
教室がいつもより騒がしい中で、自分の身を潜めるように影を消す。
冴えない僕みたいな人は、教室にも当然居場所がなく、周りの目を浴びないように、視界を暗闇にすることで、そこだけは自分がいていい場所となる。
右耳から聞こえてくる男子の馬鹿みたいに大きい声と、左耳から聞こえる女子の中身のない会話に、自分の中から自分を喰い蝕まれるように感じる。それは自分もこうやって、彼ら彼女らと一緒に空間を共有しているのだと確認されるからである。
僕はまた自分の世界に入ろうとするが、結局入れないまま終わり、暗闇さえも見放してくる。
だから、この時間がすぐ終わるようにと思いながら、次の授業開始のチャイムを待っている。
「祐介」
僕の頭上右から僕の名前が聞こえた。頭をふとあげると原修平が、「うえい」と小さな声で僕を見た。
「次の授業なんだっけ?」
いつものようにいつものフレーズを言ってきた。
「現代文」
「あーおけ、さんきゅ」
原はニコッと笑い、ポッケからスマホを出した。
多分、原は次の授業が何かを知っているのだが、僕との会話を始めるために毎度このフレーズを使っているのだろうと思った。
彼はこうやって、いつものように休み時間になると僕の席にやってきて、次の授業が何か僕に聞いた後、僕の席の前でスマホをいじる。
原も僕と同じように、教室に居場所がない人だった。彼自身は結構社交的なタイプなのだが、その社交性が空回りすることが多く、皆から少し敬遠されていた。
だから唯一、避けてこない僕を見つけて、毎回のように話しかけてくるのだった。
「てか祐介、昨日言ったYoutube見た?」
「見てない」
「なんだよ、見てって言ったじゃん」
「別に興味なかったし」
「はあー?つめたー、モテねーぞ」
原は笑ながら言う。
「テス勉してる?」
「特にしてない」
「お前毎回言うよな〜。の割にはいい点とるし」
「原が点数悪いだけでしょ」
「はあ〜?これでもこちとら頑張ってんだよ」
原はペラペラと話す。
「てか数学の範囲、あれ正直今何やってるかわからないよな」
「たしかに」
「よなーやっぱ理解できねーよなー良かった〜。前さ、満田に聞いても何か本当にそうかあいつ不安だったからさ〜」
「お前嫌われてるから、はぐらかされたんじゃない」
決して強い感じにならず、冗談ぽく言ってみた。
「おいおい、やめてよそういう事いうの〜」
原の変な焦り様に、思わずクスっと笑ってしまった。原本人は皆から敬遠されている自覚がないらしいようだった。
人の声で入り混じる教室で、僕らはただどうでもいい会話を、自分達の居場所を見つけるかのように話していた。
チャイムが鳴る。
教室内外から人が出入れしていく。原はスマホをポッケにしまい、自席に戻っていった。
「はい、席つきなさーい」
現代文担当の丸本が声を教室内に響かせた。教室の雑音は段々と落着きを戻していく。
「はい、えーっとね、あれ前回何ページまで進んだっけ?まあ、いいや。はい、号令してー」
号令係の挨拶とともに現代文が始まった。
僕はいつも通り、机に突っ張して寝る体勢に入ろうとしたら、その瞬間、丸本と目が合った。
「あ、前田、あんたいつもそうやって寝てるでしょ。ちゃんと起きて授業しなさいよ」
いつもは何も言ってこない丸本が、語尾を強め今日は注意をしてきた。
この瞬間、クラスは変な空気で一瞬静まる。
「…まあ、そういう人は置いて授業進めるからね。てか、あんたもだよ澤田!」
「僕は、いつも起きてますよー」
クラスのお調子者的なポジションの澤田輝樹に周ると、クラスはまた、何もないように普通の空気と馴染み、適度な笑いが生まれた。丸本も笑っている。
「はい、じゃあ前回のページ開いてー」
クラスはまた静かになり、僕は安堵と内心の動悸を隠しながら体勢を起こし、普通の顔を演じてノートを開いた。
横目に視線を感じたので、ちらっと見てみると、2人挟んだ斜め横の席の原が、僕に、目くばせをして、ニコニコとしたいたずらな笑みを手で隠すように見てきた。
僕はそれを無視して板書に目をやると、スッと視線も消えた。
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