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「博士、昼食の時間です」
「ありがとう。そこに置いといてくれるかな」
片手でも食べられるような簡単な食事を、散らかった机の上にお盆ごと置く。博士がこれに手をつけるのは、きっと料理がすっかり冷めている頃だろう。
「博士、たまには一緒に昼食でもどうですか」
「悪いね陶山くん。今とても手が離せそうにないんだ」
「もう暫く、あなたの顔を見て話していないんですよ」
「私だって寂しく思うよ。でもね」
博士はふと手元を止め、寂しそうな目をした。唇は乾き、頬も随分とこけている。酷く疲れているのは目に見えているのに、僕にはそれを止める権利などない。
「もうすぐ、だからね」
完璧にしないと。自分に言い聞かせるように呟き、作業に戻る。
「楽しみだなあ。きっと世界があっと驚くよ」
「そうですね。僕もその様子を見たかった」
「キミの存在が、世界を救うんだよ」
「そうだといいんですが」
ぼくは贖罪のためにここにいる。今は博士の身の回りの世話と施設の管理しか出来ることはないが、それが僕の生きる理由だった。
「…きっとキミの罪は、その時償われるよ」
いつかは罰されなければならない身だ。覚悟はとっくにできている。コップから昇る湯気が生暖かい。
「さ、集中したいから席を外してくれないか。昼食の用意ありがとうね」
「…確認、しないんですか」
「しないとも。キミを信頼しているからね」
博士の後ろ姿からは、本当の感情を読み取ることはできなかった。
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