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インプラント
待ち合わせた日比谷駅近くの喫茶店に、市川は先に到着していた。
「マル害の似顔絵を描かせたんだが、それより有力な手掛かりがあってな……」
辺りを憚るように視線を動かした。
「インプラントだ」
「……というと、あれですか? あごの骨に金属を埋め込んで義歯をくっつける歯科治療」
「そうだ。歯槽膿漏で歯を失うのは四十代ぐらいからだろ? ところがマル害は明らかに若い女だ。歯牙鑑定をした警察歯科医が言うには、あごの骨の成長が終わっていない十代ではインプラントはしないそうだ。二十代でも少ないらしい。
隣の歯はセラミック治療の跡があるから、マル害は転倒接触事故のようなもので歯を失ったんじゃないかということだ。推定年齢を考えれば治療したのは直近だろうと。現場からげそ痕が複数取れてるが、そんなもんじゃどうにもならんからな」
市川警部はノンキャリの叩き上げだけあって、その鋭い眼光にはいまだに腰が引けてしまう。背広の内ポケットを探った市川がひょいと肩をすぼめてバツが悪そうな顔で引っ込めた。タバコが吸いたいのだろう。デカという生きものは相変わらず喫煙者が多い。
「報道に下ろしてない情報は聞けるんですね」
「あぁ、ちなみにだがこれ以上は出ない。新聞記者の鑑取りで警察関係者の一部が口をすべらせたというていで流した。その後の新聞社もテレビも報道協定で止めた。誘拐事件の疑いがあるということでな」
「誘拐ですか」
「うん……拉致だな。後でお前の情報を詳しく聞かせてくれ。家庭用なんだろうが……打ち上げ花火の類だろう。下半身がひどいことになってる」
「女の下半身というと」
「あぁそうだ。体液を採取されないようにだろう。都内の一軒家ってどこだ」
「調布です」
「調布と日野って車でどれぐらいかかる」
「高速を使って……一時間はかからないでしょう」
「そうか。写真を見せてもらおうか」
封筒から取り出した写真を指差した。
「こっちが片山大輔です」
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