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ドアを開けたときに気づいた違和感は、匂いだった。私はゆっくりとドアを閉め、玄関で靴を脱いだ。雨でビショビショの靴下もついでに脱いだ。
玄関のまえでビショビショの靴下を持った私は考えた。その匂いは、確かに、どこかで嗅いだことのある匂いだった。
私はまだ13年しか生きていない。記憶を辿り、13年間に嗅いだことのある匂いをフラッシュバックする。その時、旅行に行ったときのホテルを思い出した。どこのホテルだったか。旅行はあまり好きではないが、ホテルの料理や布団は大好きだ。
そう、あれは、初めての海外旅行。オーストラリアに行って泊まったホテルの、306号室。私が泊まった部屋の匂いによく似ている。
しかし、その匂いよりは少し油っこい匂い。私は考えながら、洗濯かごに靴下を入れた。リビングへと続く扉を開こうとした時、もう一つの匂いに気がついた。
私は足をとめ、また考え始めた。
形容しがたい、表現の仕方のわからない、なんとも言えない匂いが漂う。
強いて言うなら、ゴムと卵を混ぜた匂い。言葉にするとあまり嗅ぎたくないものだが、不思議としっくりくる匂いだった。
多分これも一度、いや何度も嗅いだことがあるんだろう。
私は扉を開け、キッチンへと向かった。
散々考えてはいたが、心のどこかで最初からなんとなく分かっていたんだろう。
夕飯のおかずの匂いだと。
306号室の匂いとゴムと卵の匂い。
まともな答えは出ていないが、せっかく考えたんだ。
答え合わせをしよう。
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