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気付くとき
昔から、割と面倒見は良い方だったと思う。
でも極力人間関係でゴタゴタするのが嫌だった。
だから、クソ程どーでもいいシガラミも、忖度も
上辺だけなんとか掬って、それなりにこなせれば良くて。
仕事で自分に出来ることは、何でも引き受けたし
プライベートもそこそこ楽しむ。
それが、俺だった。
とくに不可がない。それだけだ。
ある年の4月、新入社員の後輩が入ってきた。
俺との身長差は約30cm。
本人はスーツが不似合いな小さな女子だった。
真面目を絵に描いたようなYESマン
ただ、意思は強そうな目をしていた。
それが第一印象だった。
その日を境に、彼女は、とにかく毎日ちょこまか動いてた。
いつも小走りで、ハムスターのようにセカセカと動いたものだ。
お局から言われる小言も、失敗を重ねながら、懸命にこなしていたように思う。
お姉様方からは、小回りがきく新人として、そのうち重宝されるようになった。
電話対応、荷物の受け渡し、ちょっとした事務対応はいつの間にか自信が板についたようだ。
新人は営業に配属されたが、技術部隊の俺のチームとも絡むことが多かった。
自分自身セールスエンジニアとして動いていたからこそ、あいつが営業でこの道を一人で歩けるようになるまで、苦労するだろうと予測をしていたものだ。
既にレッドオーシャンである業界だったため、競合他社も多い。
生き残るには、地道な努力だけでは実を結ばない。
とにかく人脈がものをいう。
あいつに当初課された使命は、新規顧客を自分で見つけてこい。というものだった。
時代遅れとも取れる闇雲なテレアポも、彼女の上司はまずはやってみろと言った。
他の人間は絶対やりたがらない。
100件架電して、2件ぐらいアポが取れれば上出来だったんじゃないかと思う。
それをあいつは、4ヶ月毎日続けていた。
悩みもあっただろうけど、弱音は一切吐かなかった。
いつからか、おずおずと俺の顔色を窺いながら、システム構造のことを色々と質問しにくるようになった。
あの地道なテレアポも、少しずつ実を結び始め、システム部の決裁権を持ってるおっさん達からなんとか仕事を得ようと必死にネタを探していたからだ。
誰がか「松田が詳しいから」と適当に振ったせいで、アイツはまんまと俺に頼ってくるようになった。
まぁ確かに、商材を取り扱っている部門で一番最新のネタをもってるのは俺だったが。
初めは、トンチンカンな質問ばかりで、コイツは全くシステムについて学びが無いやつと何度も思った。
なんでこんなことも分かんない?ってめちゃくちゃ思ったけど、新人相手にそんなことは言えず…。
ただ、理解しようと決して諦めなかった姿勢はあった。
分からないことは、分かるまで何度も何度も質問を繰り返し、くらえついてきた。
ようやく概要が理解できたときには、「なるほど!」と目を輝かせて、嬉しそうに笑ったのを覚えている。
接点が増えるほど、意志が強く、頑固で、融通が効かないところも垣間見えるようになった。
俺も俺で、譲れない所はある。だから、仕事の進め方で意見の食い違いもあった。お互い一歩も譲らず。
気が強いのも、生意気な口を聞くようになったのも、一周まわればそれも個性ってやつで。
だんだん仕事にも、仲間にも慣れてきて、アイツは皆んなに好かれていた。
俺に対して緊張も次第に無くなり、会話の切り返しも心地いいテンポで返してくれるようになった。
アイツがしんどそうな時は
「どした?なんか悩んでんの?」と。
嬉しそうに笑っている時
「なんか良いことあった?」
そう聞きたくなる。
真面目かと思えば、ふとした瞬間に煌めく無邪気さや、繊細さに
どうにも無視ができない。
一緒に笑える瞬間が増えるほど
心地よかった。
2年、3年、4年...あっという間に時が経って
目の前にいつもいることが当たり前になっていた頃
アイツが会社を退職することになった。
まさに青天の霹靂だった。
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