1.その回り道は、優しさの証拠

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「珠杏、こいつ、保城(ほうしろ) (りん)な。俺らと同じ6組で、俺と同じ野球部!まあなんていうか敢えて言うのほんのちょっぴり照れくさいけど…、親友ってやつよ」 「違うけど」 間髪入れず臨と名乗る男に否定されても節は全く堪えていない。メンタルが凄いといつも感心してしまう。 「アーっ!まずいマジでまずい!このままでは絶対必ず間違いなく遅刻する!!ほら珠杏さっさと乗れ!」 「は?お前なに勝手に…っ」 「――っ、」 スマホを確認した後、大声で慌て始めた節が思い切り私の腕を引っ張った。そして動揺を僅かに乗せた男の声が耳に届いたのと、顔面に痛みが走ったのは同時だった。 「はいさっさと出発!俺のことは良いから行け!屍を越えていけ…!?」 「さいご絶対意味違うでしょ」と突っ込む前に、自分の状況を把握することに努める。二輪自動車の後ろに、横向きに座らされた私の顔面の痛みは、節の強引さの所為で、思い切り臨と名乗る人の背中にダイブしてしまったからだとそこで漸く分かった。ジンジンと痛む鼻を抑えていると、前から大きな舌打ちが落ちる。 「おい」 「え」 「振り落ちてもそのまま置いてくから」 「ちょ…!!」 眉間に皺を寄せてこちらを一瞥した男が、その後容赦なくペダルを漕いで自転車のスピードを加速させる。不安定にぐらつく身体を保つために咄嗟に目の前の男の背中にしがみつこうとしてしまった。でも「それは違う」と瞬時に判断を下し、背中にかけられたバッグを代わりに思い切り掴んだ。 ◆ 「全く。登校初日から2人乗りで生活指導の東郷先生に見つかって説教されて遅刻とは何事よ?」 「……ごめんなさい」 「臨ちゃんも聞いてる?あのね、校則違反はもっと上手くやんなさいよ?東郷先生コワイんだから僕、怒られたく無いわけよ」 ――職員室の、とある一角。回転式の椅子をキコキコ鳴らすのは、私のクラスの担任の前山先生だ。教科は地理を担当していて、節が「前ちゃんはまじでイージー」とよく分からない説明を事前にしてくれていたけど、ちょっとだけ意味が理解できた。この人、めちゃくちゃ厄介なことが面倒そうだし緩い。 『お前ら何やってんだァ!!!!』 あの後結局、二人乗りしている姿が見つかって説教をいただいて。無事に登校初日から遅刻扱いになった私は、運転手をしていた男と職員室に連行された。 とっくに一限目が始まっているし、もう、私の高校生活は終わったかもしれない。こんな風に悪目立ちしてどうしよう、と視線を上靴に落とす。 「分かりました、これからは上手くやる。もう教室行って良い?あと臨ちゃんって言うのやめろ」 「この人ぜ〜んぜん反省してなさそうなんだけど、まあ良いよ。とにかく怪我に繋がることだけはしないでね、宮脇さんも分かった?」 「はい」 「朝のHRで宮脇さんのことみんなに紹介したかったんだけど授業始まっちゃったからさ。とりあえず臨ちゃんと教室行ってくれる?」 「…はい」 覇気のない声で返事をすると、前山先生は「まあ元気だしな?」と何故かのど飴をくれた。
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