1.その回り道は、優しさの証拠

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――3ヶ月遅れて始まる高校生活。  『え、珠杏って"そう"なの?』  『なんか怖いね』 とにかく前のように目立たないように、誰の視界にもなるべく留まらないように。そういう決意を携えていた筈だったのだけど。 「……私が甘かったですね」 「そうだね、節のおバカっぷりはもうクラスでも周知だから。その幼馴染ってなったらみんな気になるでしょ。ねえ保城」 「さあ」 「なんか全く気になってない奴も居るみたいですが?」 「指差すな」 「え、宮脇さんと保城、もう随分仲良くなったんだね?良かったわ」 良くないです。そして仲良くなってません全く。この男が規格外に、初対面から腹立たしいだけです。 「――あれ、珠杏と臨!?」 反論を心で唱えていると、喧しい男の声が飛んでくる。足の速さを活かして廊下を猛ダッシュしながら近づいてくる節は、驚きに目を見張る。 「え、なんで此処に居る!?委員長までどうした、授業は?」 「……節、ちょっと後で説教したいんだけど」 「俺は殴らせろ」 「しかもお怒りモード!?なに、もしかしてお前らも結局遅刻したの!?」 私と保城 臨の態度から察したのか、存分に驚いた後は「鈍臭せえ〜〜」とけたけた子供の悪戯が成功したかのように笑っている。保城臨からのゲンコツが落ちても、変わらずキャッキャとお猿のように笑っていて、再び生活指導の東郷先生の雷が落ちたことは言うまでもない。 全くもって、出だしから計画を崩された。 ――いつも騒がしい幼馴染が連れてきてくれた場所で3ヶ月遅れて始まった高校生活は、最初から予想出来ないことだらけで。 10年経った今でも、よーちゃんは「珠杏のおしとやかキャラ計画、まじでじわるよね」とよく揶揄ってくるようになることは、考えてなかったし。 仏頂面の腹立たしい男のことを、どうしようもなく目で追うようになることだって、全く、考えていなかった。
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