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『もうちょっと愛想良くできないですか?』
『何のために?』
『……円滑な高校生活を送るためにですが?』
『そういうの間に合ってるんで』
『マニアッテルンデ!?』
『うるさ、声でか。節かよお前』
『節と一緒にすんな…!』
『おーい珠杏チャン、どういう意味?」
「間に合ってる」とか、まるで私が変な勧誘でもしているかの如く、面倒そうな顔でスルーしてくる男にまたあっさり怒りが湧いてくる。そして繋げられた保城臨の感想には思わず突っ込んでしまった。
『宮脇さん、やっぱりツッコミ系なんだ?』
『だから言ったじゃん、珠杏は絶対ボケよりツッコミなのよ』
呑気にニコニコと補足してくる節に同意するクラスメイトからの視線が恥ずかしい。
『でも話しやすそうでよかった』
『これからよろしく』
『節の世話もよろしく』
だから、「嗚呼、もっと大人しく過ごしていくつもりだったのに」と後悔する私に、次々とかけられた言葉は予想外だった。驚いて目をまじろぐと、節がしゃがみ込んで私の机に顎を乗せつつ嬉しそうに白い歯を見せて笑っている。
"6組はまじで良い奴しか居ないから"
おバカな幼馴染が言ってくれた言葉を思い出せば、全然そんな流れじゃないのに急に瞼が熱い。
今朝、節と登校する時に緊張でガチガチに強張っていた身体から力が抜けていく。泣きそうなのを誤魔化すことに注力すれば震えた声で「承知しました」と意味の分からない返事を絞り出すしか出来なくて、また笑われた。
なんとなく視線を感じて隣を見遣ると、頬杖をついた男が、それはもう憎たらしく片方の口端を上げている。
私のキャラづくり計画が初日にしてもろとも崩れ去ったのは、この腹立たしい男の所為もだいぶ大きい。だけど素を出せる環境になって、皮肉にも安堵しているのも事実で。
節、こいつも本当に、"良い奴"なの?
心で問いかけながら、保城臨からの視線は私が先に逸らした。
――そうして、私の高校生活は無事に3週間目を迎えている。
「うわ、本当に急がないと…!」
腕に巻いた時計を見つめて、予鈴まであまり時間が無いことを知る。いつも節と一緒に通学していると、有無を言わさずあの男が初日に紹介してきた「スペシャル通学路」を選択させられて、回り道な分予鈴ギリギリになって、委員長のよーちゃんに怒られるという流れだったけれど。
今日は、煩い幼馴染も居ないので"正規ルート"で行ってみよう。そう決めて、同じ制服の生徒たちがごく自然に選択する道を私も歩き出そうとした。
「――っ、!?」
が、と後ろから思い切り頭を掴まれて驚きに息が詰まる。声も出せずにただ背後を確認すると、精悍な顔立ちを惜しげもなく晒す男が器用に自転車に跨ったまま私を睨み付けていた。
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