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中学卒業を迎える直前、1番仲の良かったアキちゃんが飼っていた犬のルークが、死んでしまった。小さい頃からずっと一緒だったと言う彼女は、学校生活の中でもふとした時にぽろぽろと涙を流してしまうくらいには、心に大きな傷を負っていた。
何か、したかった。
励ましたかったし、早く元気になって欲しかった。
『あのね、ずっとアキちゃんの傍に今も、ルークは居てくれてるよ』
私の言葉は、嘘じゃ無い。実際本当に、彼女の足元に嬉しそうに擦り寄るとても可愛いポメラニアンの姿を何度も目撃したし、アキちゃんが愛情を持って育てていたのだと、痛いほど分かった。
それをただ、伝えたかった。――でも多分、私はやり方を間違えた。
『……珠杏ちゃん、何、言ってるの…?』
見たかった彼女の笑顔を私が見られることは無かった。それどころか、青ざめていく表情に私もどくどくと嫌な刻み方をする心臓を抱えて、冷や汗が止まらなくなった。「間違えた」と、その揺るぎない答えだけを全身が伝えてきていた。
『え、珠杏って"そう"なの?』
『なんか一緒に居るの怖いね』
瞬く間に広まった噂は、私1人では止めようが無かった。中学受験組は、普通なら高校もそのままみんなエスカレーター式で進学出来る。でも、その場所に足を踏み入れることはもはや地獄のように思えた。
『珠杏』
立派に引きこもり生活となった私の部屋に、遠慮なく入ってくる人物なんかそこまで多くはない。
声だけでそれが誰かは直ぐ分かった。
『……節、わたし、やらかした』
ベッドに寝転がったまま、布団を被ったまま呟くといつも煩い幼馴染は「珍しいじゃん」と軽く笑う。直ぐ傍に腰を下ろした気配が伝わった。
『傲慢だった。"良いことしてる"みたいな、そういう気持ちも、多分あったの。アキちゃんに感謝されるかもって、そういうことさえ、思ってた』
『…珠杏あのさ』
『なに、?』
『"ゴーマン"ってなに?お前難しい言葉使うのやめて』
『節は、相変わらず、バカだね』
『それほどでもねーよ』
『褒めてないよ』
けたけたと笑う声に釣られて、少しだけ布団から顔を出す。目が合った幼馴染は、嬉しそうに無垢な瞳を細めた。
『珠杏、お前、俺の高校来れば』
『……は…?』
『そりゃあお前が行くはずだった高校よりはおバカだけどさ。ちょっと遅れて入学にはなるけど、流石私立高校、編入試験の融通とか効きそう』
「クラスも一緒にしてくれって担任に頼み込むわ」と楽しそうに提案してくる節に言葉が出ない。じわじわと涙が込み上げて、両方の瞼を自分の腕に押し付けた。
『……中学受験したのは、地元のみんなだけじゃなくて、節から、離れるためもあった』
『エエ〜〜!!!?衝撃!!!』
『だって節、私のことどうしても気にかけるでしょ。もう解放してあげたかった』
事情を知る節は、幼稚園でも小学校でも、浮きがちな私を、あらゆる場面で助けてくれていた。"肝試し"とか、そういう私にとってはしんどい行事の時には、きっとみんなと遊びたいだろうに、気遣って一緒に居てくれることも沢山あった。
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