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0.その回り道と、ゴールの消滅
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私とあの男は断じて、腐れ縁なんてものでは無い。
「いやいや、腐れ縁だろ。諦めろ」
「なんでよ!?というか諦めろって何」
「あのさあ、珠杏。高校卒業して何年経ったか分かる?」
「………6年です」
「そう。つまり?」
「つまり…?」
「つまり小学生が無事にランドセル卒業出来ちゃう年月なのよ?」
「…あ、うん?めでたいね」
「なんだその感想。なめてんの?」
「いやその例え、ピンと来るようで全然こないよ」
「長い年月だなってことが言いたかったんだよ、察しろ」
「はあ」
既にこの1時間弱でそこそこの量のお酒を摂取している隣のよーちゃんが、気の抜けた返答をする私を思い切り睨んでくる。体内のアルコール分解能力が追いつかなくなってきているのか、酎ハイのジョッキを勢いよくテーブルに置いて、こちらに凄んでくる様子は取り立てを実行するヤクザのようだ。怖い。
「よーちゃん飲み過ぎでは?」
「あたしはねえ!珠杏には幸せになって欲しいわけですよ」
「うわー、このお姉さん遂に絡み酒が始まりました」
「なに、洋珍しく酔ってんじゃん」
「うわ本当だ。珠杏、最後までお世話よろしくね」
「みんな冷たい」
私が感想を伝えると、周囲はケラケラと楽しそうに笑いながらも、店員さんになんだかんだ水を注文してくれた。隣のよーちゃんは、私の首に腕をぐでんと回して抱き付くような姿勢を留めたまま、既に半分寝てしまっている。物理的にもしっかりと絡まれている状態に、苦笑いが溢れた。
――大学時代にお世話になってきた大衆居酒屋よりはちょっぴり敷居が高い。でも決して高級とまでは言えない、そういう位置付けの創作居酒屋のとある個室。長テーブルを囲むように座る男女はみんな、よく知っている顔ぶれだ。
ただ、よーちゃんの言うように6年前、私達がその手に握るグラスの中身は、決して酔いを与えたりするようなものではなくて、大体いつもファミレスのドリンクバーで調達出来るカラフルな色の飲み物だった。
南高校 1年6組、2年6組、そして3年6組。
担任もずっと変わらず、板書を直ぐに容赦なく消すことで有名な地理の前山先生。
3年間クラス替えが無いという我が高校のシステムにより、年数が上がるごとにクラスの仲も当然深まっていった。最初の緊張がまるで嘘みたいに、もはや一緒に過ごすことに何の違和感も無くなった私達は、未だにこうして、卒業してから何年だった後でも、年に数回集合している。
「同窓会」と大それた名前が付かなくても、みんな自然に、そこそこの出席率を保って集まれるのは凄いことだと思っている。
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