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2.その回り道で、悔しさの昇華
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「珠杏、ちょっと"一生に一度に近いお願い"だから、リーディングのノート写させて!!!」
「…何そのお願い?」
「お馬鹿!"一生に一度"って言い切っちゃったら1回しか使えないだろお!!」
「なんで私がバカ呼ばわりされるの、しかも厚かましい」
溜息混じりにとんとんと、既にみんなから集めたノートの束を整えていると、うるうるした瞳で節が私に縋りついてくる。
「頼むううう!今日まじで放課後居残りとかしてる暇ねえんだわ、練習が試合に向けて佳境を迎えております!」
「…さっさと写してね、次の授業の後には先生に提出するから」
「神か!?」とほぼ泣いている節が、いそいそと隣の席に座って私のノートを開こうとする。
「――おい自分の席でやれ」
いつもの低く平らな声が節の上に容赦なく落ちる。それでも節は、全く気にしていない。
「冷たいこと言うな相棒!お前だって俺が練習行かなかったら寂しいし困っちゃうだろ!」
「そうでもない」
「ツンデレめ!でも臨ちゃんのそういうとこも好きよ」
「はやくやれよ」
げんなりした顔で促す男は、自席を奪われて面倒そうに窓際の壁に寄りかかる。目線だけを静かに動かしてそんな男を盗み見た筈なのに、ばっちりと視線が交わってしまって、酷く動揺した。
「…なんだよ」
「は?なんでも無いですけど」
睨まれたら、もう睨み返すしか無い。可愛げの無い言葉をツンとした声で返せば、さほど興味もなさそうな顔の男が「日誌」とその2音を紡ぐ。
「え?」
「放課後俺が書くから、机に置いておいて」
「……い、良い」
「は?」
「あ、あんた字汚いし、日誌は私がやる。あんたはさっさと部活行きなよ。日直の仕事は、デカいんだから黒板消しだけやってれば」
ぺらぺらと早口で告げ終えるまで、自分が何を言ったかイマイチわからなかった。でもその後、恐る恐る見上げた保城が、不機嫌マックスの顔で「あっそ」と呟いて立ち去る様子から、私の発言は最悪だったとそこで気付く。気付いても遅い。
「珠杏ちゃん。"日直のことは気にせず部活がんばってネ!"っどうして言えないかね」
「……そんなキャラじゃない」
「ほんと、しょうがねえなあ」
ノートを英文で必死に埋めている途中の節が、やれやれと呆れた顔で笑う。「世話が焼けます」と言われて悔しかったから「節に言われたく無い」と一応反論はしたけれど、心に後悔が渦巻いている。
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