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――高校2年生の、初夏。新緑が爽やかに色づいて私たちを染め始めた頃。クラス替えの無いこの高校は、2年6組になっても勿論メンバーは同じだ。
最初の席次は、名前の順で決まる。そうなれば1年の時と同様、私の隣は保城 臨になってしまう。それに隣の席とペアを組む機会は、なんだかんだ多い。今日の日直もそうだし、授業中に小テストの採点やペアワークをする時もそうだし。
その度に何故かソワソワと落ち着かない自分が存在する理由は、よく分からないままだ。
売り言葉に買い言葉で、可愛げの無い態度を示してばかりの自分にもどかしくなることも、よく分からない。病気なのかもしれない。
『…みんなに言わないの?』
『あ?』
1年前、通学路で気分が悪くなった私を結局学校まで自転車で運んでくれた保城は、"私の秘密"をクラスのみんなに言う気配は無かった。
隣の席で、休憩時間に机に突っ伏す男を叩き起こして問うととても怠そうに顔を歪ませる。
『言って欲しいわけ?』
『…い、や。言いたく無い、けど』
『なんなんだよ、お前を話題にするほど興味ねえわ自惚れんな』
『あー、そうですか!すみませんね…!』
ゆるい姿勢のまま頬杖をつく男が、欠伸をしながらこちらを射抜く。明らかに眠気を纏うくせに、眼差しの鋭さは抜けていない。
腹立たしい回答をされて、話題を強制的に終わらせようとした。
『お前が話したいって思ったタイミングで、話したい奴にだけ言えば良い話だろ、いちいち面倒くせえな』
そう言い放ってまた机に突っ伏す男は、本当にそれ以降、私自身に"見える"ことについて尋ねてきたことも、周囲に漏らすことも無かった。
ほんっとに私に全く興味が無いという表れだとも思うけれど、好奇心や恐怖心をぶつけられないことは、凄く有り難かった。
――でもそのお礼さえ、私は言いそびれ続けている。
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