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「ありゃ?臨は?」
購買で勝ち取ったパンと紙パックのカフェオレと、それからおにぎりを沢山抱えた節が、目をまんまるにして私の隣の席へ近づいてきた。
「昼休み入った途端、居なくなった」
「おいおい臨ちゃん、お昼はいつも俺と過ごす約束だろお!」
どかっと保城の席に座った節は、目が合うと眉を下げて困ったように笑う。そして腕に抱えていたご飯を机に綺麗に並べ始めた。どうやらあの男への差し入れらしい。
教室は、仲良しグループでまとまってランチタイムに入るクラスメイトで騒がしくなっていて、よーちゃんも私の前の席に同じタイミングで腰掛ける。
「臨はああ見えて、人の気持ちに敏感だからさ。俺に気遣せたくなくて、わざと消えたんだな」
「……保城のお母さんは?」
「容体は安定してるらしいけどなあ。でも今日の朝練も多分家事代わりにやって休んでたから。あいつのとこお父さん仕事激務で、弟も妹もまだ小さいしな。でも理由知らないメンバーの奴らからは、余計反感勝ってるヨ」
「あの男本当、なんでそんな格好付けなの」
よーちゃんが苛立ちを隠さないまま、お弁当箱の玉子焼きをお箸にぶっ刺す。その拍子にはああと大きく長く息を吐いた節は、こちらを向いたまま頬をぴったり机にくっつけた。
「もう俺がみんなに言ってやろうかなあ。"あの日"は臨のお母さんが倒れて、病院に付き添ってたから仕方なかったんだって」
「バカ、保城に口止めされてるんでしょ」
私が指摘すれば「えーん」と泣き声を上げて、表面上は軽さを出しているけど、節も多分相当もどかしさを抱えているのが表情から分かる。
――土曜日、保城が姿を現したのは結局、試合が始まってから1時間以上が経った頃だった。
節からメッセージが来て私とよーちゃんは事情を知っていたけれど、あの男は頑なに監督以外のメンバーにその事実を伝えるのを拒んだ。
『保城お前、これがどれだけ大事な試合か分かってんの』
『"自分達2年生にはもう1年ある"って、どっかで思ってんじゃねえの!?』
保城が入ったことでスタメン落ちした先輩達からの怒りは特に凄く、それでもあの男はただ頭を下げるだけで何も言わなかった。
『結局、全部見下してんだろどうせ』
『お前のこと仲間だと思うの無理だわ』
吐き捨てるように言われたものは、傍で聞いてるだけの私まで心臓が痛いのに、本人はどんな風に思うのか考えるだけで胸が裂かれるようだった。
集団から弾かれるきっかけなんて、本当にあまりにも簡単で小さなもので。
――『なんか怖いね、一緒に居たくない』
昔自分が告げられた言葉を同時に思い出してしまう私は、やっぱり、じっと耐えるあの男の横顔を思い出したら居ても立っても居られなくなった。
「……節!!」
「うお何、ビビった」
「明日部活、朝練ある!?」
「…え、なに。明日は無いけど」
「ちょっと協力してほしい」と、隣の席に座る幼馴染に真剣な顔で伝えれば「なに〜?」とニヤニヤ楽しそうに笑いながらも耳を傾けてくれた。
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