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「てかなに、何で洋は今日こんな酔ってんの?」
「たしかに」
高1の時から3年間、クラス委員長を務めた回数が1番多かったのは、今隣で眠りこけているよーちゃんだ。あの頃から"みんなのお姉さん"という印象が強い彼女が、こんな無防備な姿になるのは珍しい。
「あー…、なんでだろ」
当然湧く疑問に私が下手な笑顔で応えた途端、「え、まじで!?」と一際大きな声がテーブルの右端の方から飛んだ。
なんだなんだと、皆んなの注目を一気にかっ攫う大きさの声に私も促されて視線を移す。
「――珠杏と臨、今の職場と予備校も近いって!」
「また?」
「あんたら何なの」
「どんだけだよ」
次々と好き勝手に感想を述べていくみんなに、口を挟む隙がなかった。思わず険しくなる私の表情と同じように、数席あけて斜め右の方角に同じく不機嫌そうなオーラを感じる。
今しがた私と共に名前を呼ばれた男が、精悍な顔立ちをこちらへ向けているのが分かった。
くっきりと綺麗な二重幅を保つ双眸は、冷たいほどの美しさを保つ。峰のある高い鼻や、結ばれたままの薄く小さな唇は、隙のない完璧なパーツと言える。だからこそ、仏頂面の男の感情をより読み辛くするのをいつも手伝ってしまう。
視線が交われば、ばち、とお互い火花が散ったのが分かる。
「おいおい、堂々と見つめあうなよ」
「ラブラブかよ」
「え、ちゃんと見えてる?あいつ思い切りこっち睨んできてるんだけど」
揶揄うみんなにきちんと訂正を言うのに「照れんなよ」と流されてしまう。この酔っ払い達、どうか私の話を聞いて欲しい。
「大学も一緒、あんたが就職した後もな〜〜んかずっと近い。そんなの腐れ縁以外ないじゃん!だからもうさあ、諦めろ」
未だ私に抱きついているよーちゃんが、アルコールに浸った間伸びした声色で、余計な一言を付け足してくれる。
嗚呼、まずい。この流れは。
「もうさっさと付き合えよ」
「つか結婚しちゃえば?」
口を揃えて四方から伝えられた言葉の反論を、私は平静を装って必死に探す。
――そんなゴールに、私が辿り着く権利は無い。
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