3.その回り道が、苦しさの入口

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◆ 「はいじゃあ解散〜、今日来てない奴らにもちゃんと共有しとけな」 覇気のない現国の教師の声で、みんなが一斉に席を立って動き出す。配られたプリントには、「蔵書点検のお知らせ」というまた面倒そうなイベントの詳細が書かれている。 「宮脇さん!」 「…え?」 私も教室に戻ろうとすると、背後から声をかけられた。どこか気まずそうな表情を浮かべた青年は、確か、隣のクラスの山下君だった気がする。うろ覚えだけど、日本史の授業が一緒だったかなと、考える。 「あのさ、宮脇さんって、今誰かと付き合ってる…?」 まるで予期していなかった質問を投げられた。図書室を出て行く生徒は大半が自分達の話に夢中で、彼の言葉を気に留める人は居ない。 「……え?」 「ほら、あの。よく一緒にいる多賀谷とか」 「節は幼馴染だから」 「あーそれでか。仲良いよな」 「うん、大事」 節と付き合っているのかと噂されることは、今まで、それこそ一緒に登校してくることが多くてもあまり無かった。どちらかというと「お世話係」という役割が板につき過ぎているからだろう、と予測して山下君にも苦い笑顔を浮かべる。 「――じゃあ、保城は?」 「……え?」 「保城は、幼馴染じゃないよな?」 「…臨は、」 「あ、ほら!臨って呼んでるし」 『り、臨、これ日誌の授業の振り返りページ書いておいて』 『……』 『なに…!!』 『…別に』 私があの男のことを平然を装って名前で呼べるようになるまで、どれほど心臓を煩く働かせてきたか、知ってるのは私の幼馴染と、よーちゃんくらいだ。 私なりに近づきたい意志の表れだったけど、そんなものは他の女子達にはなんの牽制にもならない。現にあの男は、見知らぬ女の子にきっと今も想いを告げられている。 「……臨は、全然そんなんじゃない。喧嘩だらけだし、むかつくし」 「そうなんだ。よく一緒に居る気がするから」 「…偶然だよ」 臨の特別になりたい。 クラスメイトじゃなくて、親友の幼馴染じゃなくて、席が隣の奴じゃなくて、同じ図書委員の奴じゃなくて。 ――臨の1番近くに居たい。 だけど、会えば殆ど本心を言えた試しが無いし、可愛くないことばっかり言うし。節が間に割って入って仲裁してくれることも山程ある。 此処から先の近づき方を、とっくの昔に見失ってしまっている。
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