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「はいじゃあ解散〜、今日来てない奴らにもちゃんと共有しとけな」
覇気のない現国の教師の声で、みんなが一斉に席を立って動き出す。配られたプリントには、「蔵書点検のお知らせ」というまた面倒そうなイベントの詳細が書かれている。
「宮脇さん!」
「…え?」
私も教室に戻ろうとすると、背後から声をかけられた。どこか気まずそうな表情を浮かべた青年は、確か、隣のクラスの山下君だった気がする。うろ覚えだけど、日本史の授業が一緒だったかなと、考える。
「あのさ、宮脇さんって、今誰かと付き合ってる…?」
まるで予期していなかった質問を投げられた。図書室を出て行く生徒は大半が自分達の話に夢中で、彼の言葉を気に留める人は居ない。
「……え?」
「ほら、あの。よく一緒にいる多賀谷とか」
「節は幼馴染だから」
「あーそれでか。仲良いよな」
「うん、大事」
節と付き合っているのかと噂されることは、今まで、それこそ一緒に登校してくることが多くてもあまり無かった。どちらかというと「お世話係」という役割が板につき過ぎているからだろう、と予測して山下君にも苦い笑顔を浮かべる。
「――じゃあ、保城は?」
「……え?」
「保城は、幼馴染じゃないよな?」
「…臨は、」
「あ、ほら!臨って呼んでるし」
『り、臨、これ日誌の授業の振り返りページ書いておいて』
『……』
『なに…!!』
『…別に』
私があの男のことを平然を装って名前で呼べるようになるまで、どれほど心臓を煩く働かせてきたか、知ってるのは私の幼馴染と、よーちゃんくらいだ。
私なりに近づきたい意志の表れだったけど、そんなものは他の女子達にはなんの牽制にもならない。現にあの男は、見知らぬ女の子にきっと今も想いを告げられている。
「……臨は、全然そんなんじゃない。喧嘩だらけだし、むかつくし」
「そうなんだ。よく一緒に居る気がするから」
「…偶然だよ」
臨の特別になりたい。
クラスメイトじゃなくて、親友の幼馴染じゃなくて、席が隣の奴じゃなくて、同じ図書委員の奴じゃなくて。
――臨の1番近くに居たい。
だけど、会えば殆ど本心を言えた試しが無いし、可愛くないことばっかり言うし。節が間に割って入って仲裁してくれることも山程ある。
此処から先の近づき方を、とっくの昔に見失ってしまっている。
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