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「はい、珠杏ちゃん確保〜」
「……何しに来たの」
「不良の幼馴染を叱りに来たんですけど!?」
「今日のリーディング、もう予習してる所だから授業聞いてなくても大丈夫だし」
「準備万端でサボってるの恐れ入りました」
笑って私の隣に腰掛けてくる節は、ここまで走ってきたのかパタパタとシャツを仰いで風を起こす。夏本番を目前にして、既に茹だるような暑さがここ最近ずっと続いている。
コンビニの建物の影に潜むように座り込んでいるだけでも、じりじりとアスファルトを焦がす日光が体力を奪っていく。溜息と共に膝を抱えて俯けば、隣の節が笑った気配があった。
「とりあえずアイス食うか」
「…学校飛び出してきたからお金持って無い」
「しょうがないわねえ。俺が奢って…、待って俺も200円しか無い」
「何しに来たの」
ズボンのポケットを漁る節は、なけなしの100円玉2枚を私に見せてくる。しゅん、と耳と尻尾の垂れた子犬のような男に「嘘だよありがとう」と伝えると、「あら素直で可愛いわね」とにこにこしながら褒められた。
それを聞いてぽたりと涙が出る私は、情緒があまりにも不安定過ぎる。再び顔を突っ伏すと、後頭部あたりをいつもの温かい手に撫でつけられる。
「……おいおい泣くなよお」
「泣いてない、これは汗」
「俺もそれ信じるほどは、流石に馬鹿じゃないのだよ」
「節になら、素直になんでも言えるのに」
どうして臨を前にすると可愛くない態度ばかりになるのだろう。
「やっぱり臨絡みか。また喧嘩?」
「…喧嘩というか、私が一方的に言い逃げした」
「教室戻ってきた臨の顔、険しすぎてとんでもなかったけどな。不機嫌オーラに負けて、授業始まる前に一回しかボケ仕掛けられなかった」
「…一回仕掛けたら十分でしょ」
すかさず突っ込むと、もはやそれを待っていたかのような男が満足そうに歯を見せて笑う。
「お前が後悔する分、あいつも同じように後悔してるよ」
「……そう、かな」
「お前らほんっと、しょうがねえなあ」
両手を上げて、オーバーリアクションで困り顔を見せてくる節はちょっと憎たらしいけれど返す言葉もない。
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