3.その回り道が、苦しさの入口

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「良いですか?僕が臨ちゃん此処に連れてきますんで、君はアイスを買って待ってなさい。必ず"2人で仲良く食べられるネ!"で有名なパピオを買うように」 「…は?」 よっこいしょと徐に立ち上がった臨が、背筋を伸ばしながらスマホを確認する。そして「お、もう5限目終わるな」と呟いた後、私の前に立って先程の200円を手渡してきた。ちなみに「パピオ」というのはチューブ型になっていて2本に割れるように設計されているお馴染みのアイスだ。 「"これ半分こしよ"って可愛く言う練習しておきなさい」 「……無理」 「無理じゃない!!諦めたらそこで試合終了だ宮脇 珠杏!!」 「声でかい」 パンパンと手を叩いて叱咤激励してくる節に、苦虫を噛み潰したような顔になる。ぎゅっと渡された200円玉を握りしめて、不安を隠しきれない眼差しを向ける。優しい幼馴染が背中に真っ青な空と明るく眩しい太陽を背負って、困ったように眉を下げて笑う。 「ほら笑え」 「痛いってば」 「あのなあ、俺だって毎回毎回お前らの喧嘩の仲裁してやれるわけじゃ無いんだからな?そんなお人好しじゃねーのよ」 「…節はお人好しバカだよ?」 「おい、バカは要らなかったね?」 私の両方の頬を摘んでぐりぐりと弄ぶ節が、私の失言に手の力を強める。それでも「ごめんね」と素直に謝ると「いいよ」とあっさり解放された。 「俺に頼ってばっかりじゃ、告白なんか夢のまた夢ですよ宮脇選手」 「そのゴールは遠すぎて影も形も見えません」 絶望に打ちひしがれながら答えると、声を上げて笑った節は、コンビニから通学路へと足を進める。 「節、何回も行ったり来たりさせてごめん」 「気にすんな、この道"超最強ルート"だから」 この学校まで明らかに回り道のルートは相変わらず節のお気に入りらしい。子供のように笑う男につられて、口の端が自然と持ち上がる。 「…そういえば節、このコンビニで漫画立ち読みしすぎて店長に目つけられてるでしょ」 「言うな馬鹿!?最近ちょっと顎突き出してみたり、顔変えて通ってんだから」 「その労力、勉強に使いなよ」 「うるせえ意地っ張り女!」とまるでその通りな捨て台詞と共に元気に駆けていく節の後ろ姿は、私の後ろ向きな気持ちを吹き飛ばすくらい眩しく、夏の輝きの中に溶けていった。
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