1118人が本棚に入れています
本棚に追加
/64ページ
「……臨」
「なに」
「私の、せい、」
「……」
「あの日、私が授業サボったりしたから。節、心配していつものコンビニまで迎えに来たの」
『良いですか?僕が臨ちゃん此処に連れてきますんで、君はアイスを買って待ってなさい。必ず"2人で仲良く食べられるネ!"で有名なパピオを買うように』
苦しさに溺れてしまいそうだった。節の優しくて眩しい声も言葉も、ぜんぶを鮮明に思い出せるのにどうして。どうして節は、此処に居ないの。
下唇を噛み締めて、震えを少しでも抑えるために両腕で自分の身体を抱く。余計に揺れる情けない私の腕を、ベッドの側にしゃがみ込む男が掴んだ。「違う」と低く唱えて、真っ直ぐにこちらを射抜く。
「…俺の所為。あいつ、学校戻って俺のこと珠杏のところに連れて行こうとしたんだろ」
「俺の所為」ともう一度、何か烙印を刻むように呟く臨に向かって必死に首を横に振った。でも僅かに目を眇める男は、まるで取り合わない。
そしてベッドに座り込む私を見上げる男は、目の下にあまりにも目立つ隈を携えて、「珠杏」と丁寧に呼んだ。
「あの日、ごめん」
「……え…?」
「お前が節への気持ちを簡単に言い出せないことを、分かってないわけじゃなかった」
誠実に紡がれる言葉が、容赦なく心臓を突き刺す。「違う」と否定することも出来ない。
『私だって、簡単に浮かれたりしないよ。人に「好き」って言うのが、どんだけ勇気の要ることかずっと、痛いくらい実感してるから』
――自分の言葉がこんなにも自分を苦しめることになるとは、思ってもいなかった。
「俺が大事にする」
「…なに、を」
「節が居たことも、お前の気持ちも。一生俺が覚えておく。忘れないから安心して良い」
「一生」なんて、途方もない誓いだと思う。だけどこの男はきっと、"本当にそうしてしまう"と怖いほどに確かな予感があった。
臨。謝りたかったのは私の方。200円でアイス買って、一緒に分けてごめんねって。
ただそれだけの計画だったのに。
「…とりあえず学校行くぞ。さっさと着替えろ」
無理な笑顔を浮かべて、らしくない世話を焼く臨の様子からも察してしまった。
――この人はこのままじゃ、責任を感じて私の側に居てくれてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!