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4.その回り道に、愛しさの行方
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「つかさあ、あの女子高いつの間に共学になったんですか!?なんかショックでかいんですけど、プレミア感が半減だよ!?」
「……」
「あと高校に1番近いコンビニ、いよいよ漫画の立ち読み出来なくなりました。世知辛え〜」
「……」
「珠杏ちゃん聞いてる!!?」
「ちょっと節うるさい!」
静かに祈りを捧げようとしている私の周囲を浮遊しながら、めげずに話し続ける男にとうとう反応してしまった。しゃがんだままに鋭く睨み上げると、こちらを覗き込む節は、昔と何も変わらない人懐っこい笑顔を見せた。
「…毎年すまんね」
「何それ、節らしくないね」
持参した花束を横断歩道の傍の電柱に立てかける。既に小さな花束が置かれていて、恐らく毎年律儀にこの場所――節が事故に遭った場所を訪れているという前山先生だろうと推測した。彼がゆるく見えて本当はとても生徒想いだということは、3年間を過ごして私達が1番分かっている。卒業式の時、節の写真を見て誰よりも泣いていたのも、彼だったと思う。
そんな昔を手繰り寄せながらふと隣に居る節へと視線を投げれば、眉を八の字にして苦々しく笑ってみせた。
「まあ俺、此処での記憶ほぼ無いけどな。ぽーんって身体飛んだだけ。痛いとか思う前だったし多分」
「……そっか」
「おい暗いな珠杏ちゃん!!」
「節が元気過ぎるんだよ。私もう24歳だよ」
「だよなあ。俺より6個も歳上になってんじゃん」
「……節は、変わんないね」
「そりゃな」
――幽霊が歳取るのも、なんか癪だろ。
自分がこの世の者ではないとあっけらかんと伝えてくる節の言葉に、心がまた重さを増す。
日差しの強くなる、昼下がり。じっとしているだけでも汗ばむ陽気の中で、節にはやはり汗ひとつ見えなかった。日焼けした小麦色の肌も健康的で張りがあって、あの頃のままだ。
「…節」
「お?」
「節の命日が近づくと、クラス会やるの」
「……うん。墓参りとかより馬鹿騒ぎした方がアイツも喜ぶって考えだろ?」
「そうだよ」
「とは言いつつ、もう俺のこと偲ぶというよりただの楽しい飲み会だろ」
「う、ウーン。そうとも言う?」
「お前らのことなんかお見通しだ!」と的確に指摘してくる節が口を尖らせながらも嬉しそうに微笑む。
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